鰆の西京焼き
日テレの人気番組「どっちの料理ショー」で取り上げたのは鰆の西京焼き。
遠州灘 御前崎の漁師さんが釣り上げた鰆を、京都石野味噌さんの西京粒白味噌で漬け込んで焼いたものです。
番組でご大層に持ち上げられて初めて知ったのですが、遠州の鰆はかぎ(ギャフ)で取り上げる一本釣りなので「かぎ鰆」と呼ぶのだそうです。地元の私たちには当たり前の鰆なので、別に特別に「かぎ鰆」などとは呼びません。使える鰆か使えない鰆のどっちかです。
しかも、通常店で「これならいいな」と使う鰆は、御前崎ではなくて、舞阪か福田港にあがった4-5kg以上の釣りモノの鰆で、番組で持ち上げ物よりもさらに上質です。地元なのですから当たり前です。
たとえば以前に紹介したこんなやつ
西京味噌も以前は地元では手に入らなくて、京都から40kgの単位で取り寄せていた、石野の西京粒白味噌(番組で使っていたもの)では飽き足らなくて、石野さんのものよりももっと気に入った同じ京都の小さな味噌蔵のものを取り寄せています。甘さに深みがあっていい味噌です。
定番ともいえる献立を上質の素材と調味料で丁寧に仕事をして一皿の美味しさを味わっていただきたいと思うのですが、お客様は冷凍の鰆をこねくり回した創作料理のほうが楽しい事だってあります。鰆の西京焼きはあまりにも一般的で、上質の素材を使ってもお客様受けの難しい料理なのです。
番組で芸能人が「わぁぁーーー」「たまらん」「美味しそうぉぉ」とため息を漏らしていたものよりも、さらにもっと一層自信の鰆と西京味噌を使って、店で焼物として出しても、あの狂騒の十分の一のため息しかいただけないことだってあります。下手をしたら「なんだ、鰆のみそ焼きなのぉ」くらいになってしまうのです。
食べ手の満足は一時間の番組の「これでもか」の「こだわり」がなければ充足されないのか?
いっそのこと「どっちの料理ショーでやっていた鰆の西京焼き以上」って張り紙でもするっていう悪趣味な方法も。。。。
などというひねくれた考えは、たまぁぁぁに見かける全体の1%くらいのわけのわからない一見のお客様に対してムクムク沸き起こるいじけ虫のいたずらです。
ほとんどのお客様は芸能人ほど破廉恥でなく、静かに美味しいものを美味しいと楽しんでくださるのだと信じて・・・・でも、鰆の西京焼きを何も申し上げずにお出しして「おお!」と言わせるような豪腕を身につけるのは至難の業なのです。
私自身が「どっちの料理ショー」と同じ穴のムジナ・・・・と気づくと穴があったら入りたくなります。