返品


よくTVのグルメ番組などで、「納得できない品物は突っ返す」と豪語する調理長を拝見します。


私など気弱な板前ですからとてもできません。


というより、突っ返したら次に納得できる品物をすぐ持ってくるようなら、もともと一番いい品物を持ってきてもらってないんじゃないの?と疑ってしまいます。


納入業者との優良で上等な関係が出来上がっていれば、たぶんその日に一番いい品物を持ってきてくれるようになっているはずです。


あの親方にはこの品物を使って欲しいと思ってもらったら大したものです。


調理に使う品物は自然のものです。天候や季節、流通によって日々落差があるのはしかたありません。そのなかで最上の品物を見分け納入してもらわなければなりません。信頼できる業者が「すみません、今日はこれが精一杯です」と言ったら、私はホントにこれが今日の最上なのだなと諦めるか、それでも使えなければ別の献立にします。


そこで無理を言って何とかなるとしたら、その業者が最初から最上の努力をしていないか、見くびられているのです。最初からそういう方とはお付き合いをしません。


毎日魚屋に行くと、鯵、鯖、鰯、烏賊、鯛、海老など毎日必ず置いてある品物があります。だからといって、必ず使うわけではありません。私が見て「今日の鯖はいい」と思うかどうかは日によって違いますし、魚屋さんもたとえ置いてあっても「今日のそれは親方のところで使うのじゃあありません」と薦めません。


ですから、たくさんの魚が並んでいても「今日はこれとこれ」とその日に使うべき品物をかなり限定して薦めてくれます。魚を見る目は絶対に私より確かです。


ごくごくまれに最上と思って仕入れた魚が、いざ下処理をしてみると、血が回っていたり、身がかんばしくなかった場合があるのですが、その旨を伝えれば翌日必ずそれなりの処置をしてくれます。「突っ返す」のではありません。


幸い、私の周りにいる魚屋さん、肉屋さん、八百屋さん、酒屋さん、食材屋さんは上質な方ばかりです。上質でいい仕事をなさっている方を「突っ返す」というような形で傷つける前に、「あの親方には」と思ってもらう努力をするほうが大事だと思うのです。


誇りを持って仕事をしている方々なのですから。