根拠のない自信


私がこの道に入ったとき、師匠とも言うべき料理長は39歳でありました。


20代前半の若造にとっては雲の上の人、日本料理については何を聞いても知っているし、献立も溢れるように出て来るように見えたものです。


お吸い物の味付けひとつにしても確固たる自信をもっていて、この人が「この味だ」と言ったら、それはもう絶対的なもの、この世にこれ以上美味いものはないに違いないと思っていました。


我が身を振り返ってみると、39歳の頃・・・・なんとか自分の行く道が見極められはじめとものの、自信など全くありませんでした。


それから数年経った今でも、いくつかの慣れ親しんだ献立や基本的な料理には困らないものの、日本料理だけをとっても未だに未知の皿が恐ろしいほどたくさんあります。


「○○はどうやるんですか?」と聞かれれば、「ちょ、ちょっと待って下さい」と調べなければ完璧な手順はお教えできません。


ましてやTV番組「料理の鉄人」のように、素材をひとつ決められて、制限時間何分などといきなり言われたら手も足も出ません。


周りを見ると、同年代の職人さんは自信に溢れた方ばかりです。


どうして皆さんあれほど自信があるのでしょう。


すべてに厳しいお客様達を前にすると、少々芽生え始めた私の根拠のない自信など粉々になって、未熟さだけが見えてきます。


「この仕事、一生勉強です」などと胸をはる方は、間違いなく押しも押されもしないひとつの地位を築かれたからこそ言えるのです。


「一生勉強」などと言える自信を身につけられる早くなって見たいものです。いえ、勘違いして「一生勉強」などと言わないように自身を冷静に見つめていなければいけないのですね、きっと。