カラッポの冷蔵庫


京都のある老舗料亭のご主人がインタービューで、お店のポリシーはと聞かれて「その日に使う料理は、その日に作ってその日に使い切ることです」とおっしゃっていて、「すげぇぇぇ」と思ったものです。


フランス料理の巨匠ベルナール・パコーも、「その日の仕事が終わった時には冷蔵庫が空っぽである」というようなことを言っていたような憶えがあります。


一般の方が聞けば「料理屋でそんなこと当たり前なんじゃないの?」と思われるでしょうが、実際の現場ではなかなかそうばかりではないのです。


多くがそうであるようにフリーのお客様を相手にする店では、その日のお客様の入り具合を予想しながら仕入れをし、「その料理は売り切れました」がないように少々多めに仕込をするのが通常です。となれば当然のようにあまり物が出るわけで、あまった物はすべて捨ててしまうというような仕事をしていては商売になりません。来客予想が毎日ぴったりということなど神業です。


私ン処のように95%が前日までの予約のお客様という店では、当日の予約分+αだけを見込んで仕入れをし、使い切ってしまえばよいですし、料理もアラカルトなしコース料理だけですからなおのこと仕入れのロスは少なくて当然です。


そんな仕事をさせていただいていても、仕込みの都合上どうしても一定の量を作らなくてはならない料理とか、稀少な食材で手に入る時にそれなりの量をもらわなくてはならないものもあって「当日分だけ」というわけにはいかない事もいくつかあります。


例えば、以前に紹介したオカラで作る「卯の花」は湯煎にかけて5〜6時間かかるものですから(少量なら少ない時間ですが)その日の20人分だけを毎日仕込むというわけにはいきませし、田楽や酢味噌に使う玉味噌も練る時間の2―3時間を考えると一定量の仕込みは仕方がないものです。


ましてや毎日が満席で、当日の人数変更は受け付けないというならともかく、もしかしたら入るかもしれないフリーのお客様のためにもそれなりの用意が必要になるのです。


その日のものをその日だけに、仕事が終わった時には冷蔵庫は空っぽ・・・・という理想形は遥か遠い。