こだわり・・・ではない


今の焼き物は「三河産赤むつ若狭焼 うすい豆のソース」です。


赤むつは鮮度はもちろんなのですが、肥えていなくてはなりません。この手の使える素材は1kg¥3500以上します。切り身にして一切れ¥600以上の原価がかかります。それだけで単純計算しても一皿単価は¥1700-¥2000になるのです。


赤むつは塩をあてて一晩寝かせなくてはなりません。身が熟成して美味しくなるからです。


ソースのうすい豆は、グリーンピースと違って八百屋さんに当たり前に置いてはありませんので注文して送ってもらいます。剥いてある豆ではなくて、さやつきを剥いて即ゆでなくてはなりません。鮮度と柔らかさの問題からです。さやから剥いたグリーンピースなら八百屋さんに普通に売っていますから手間が省けます。さらに珍味屋さんへ行けばペースト状にして真空冷凍パックのグリーンピースも売っていますから、一番面倒な裏ごしの作業も省けてさらに便利です。でも味は決定的に違います。


煮物は「ホワイトアスパラの白魚のあんかけ」です。


ホワイトアスパラはフランス産やチリ産も取ってみたのですが、香川産がやっぱり素晴らしいです。選んだ品物は一本\350-\400します。太目のグリーンアスパラ一束分と同じ値段です。でも美味しいので変えられません。白魚は生のお刺身にできるものを一本づつ箸でつまんで、白板昆布という極薄くへいだ真昆布にきちっとそろえて並べ、薄塩をあてて軽く蒸し、ゆでたアスパラの上に乗せます。香りは青柚子もまだ高価ですが、木の芽では香りが強すぎて使えません。柚子が一番です。白板昆布を使わずに蒸してもよいのですが、淡い昆布の味が白魚の淡白さを生かしてくれるのでこの作業は省くことができません。


前菜には昨日から穴子の「花巻蕎麦」を使い始めました。


蕎麦は選んだ茶蕎麦を、穴子江戸前の活け締め使います。茹でた茶蕎麦をかえし(一週間以上寝かせたそばつゆの素)と出汁をあわせたもので洗って、焼き上げた錦糸玉子に箸できれいに並べます。活け締めの穴子を炊き上げて細くきりそばの上に並べます。錦糸玉子で巻いてさらに海苔で巻きます。弱火でフライパンを使って転がして海苔をしめ、一口大にきります。


茶蕎麦も穴子も細工物だからと安い物、冷凍ものを使うこともできますし、錦糸玉子はできあがったものも売っているのですが、ほんの少量ほんの一口でもそういう妥協はしたくありません。


などという講釈はとってもいやらしいので、お客様にすることはほとんどありません。特に値段や手間暇のことを並べ立てるのは気が引けてしまいます。


が、
「なんで、こんなものが高いんだ」というお客様がいらっしゃったりすると、ぶちまけたくなります。今流行りの「こだわり」ということばでご披露すれば、料理だけでなくてすべてが「こだわり」でくくられるのかもしれませんが、これらのお客様からお足を頂戴するためにする作業は「こだわり」ではなくて「真っ当な仕事」と呼びます。ひとつひとつの真っ当な仕事が美味しさを作り上げるはずだと信じて地道に作業を積み上げるのです。「こだわり」などとは恥ずかしくて言えません。