職人風情

 いつ誰が始めたか知れないが、日本には鮨職人に媚びへつらう悪習がある。単なる鮨屋を「ご主人」と呼ぶ。頼まれたわけでのないのに、連れて行った友達にその家のネタのよさを講釈する。大きい声で、鮨はこうでなくっちゃあと褒める。へらへらしゃべって、仕事中に職人の機嫌をとる。無愛想にされたら、かえって喜ぶ。マゾッ気でもあるじゃないか。どっちが旦那なんだ。
 職人のほうも、褒められれば図に乗って名人ズラする。ひとかどの先生にでもなったような気がするらしい。かわいそうに、職人の態度のデカいのと新聞記者の威張るのとは、箸にも棒にもかからないことを知らないのだろう。


徳岡孝夫さん「舌づくし」の一節。華麗な経歴を持つ元新聞記者が書く食の名著のひとつです。


鮨職人はすべての食の職人に当てはまり、新聞記者はすべてのメディア関係者に当てはまります。


今では、お客様だけでなくメディアまで職人を持ち上げたりするものだから、分をわきまえずさらに図に乗ったりしてしまいます。


「職人風情」・・・・くらいがちょうどよいと言うことを、私も含め知らなくはいけません。