大和路


TVで見た写真家入江泰吉の「大和路」への生涯をかけての取り組み。


料理人にとっては入江泰吉といえば料理本「吉兆」でも印象的ですが、代表するのはやはり「大和路」です。


終戦の年1945年から亡くなるまで8万枚のショットを重ねつづけ、一枚の写真のために二年〜三年をかけて同じ地点から同じフレームで撮っています。


ひとつの風景を撮るためには、その風景がこうあるべきであると言う明確なイメージがあって、そのイメージのための一瞬がやってくるまでいつまでも待ちつづけるのです。そしてそのイメージは万葉集を初めとする研究や試行錯誤のバックグラウンドに支えられています。


一枚の写真が単に季節と風景を切り取っただけでない美しさと重厚感に溢れているのは、彼がかけてきた時間と育んだ知性が背景にあるからなのでしょう。


それでも、表現手段はそのたった一枚の写真のみで、それにまつわる苦労話や研究については語ることがありません。


彼の写真が絵葉書でなく芸術たりえるのはそのためなのでしょうか。


料理が芸術であるとは思っていませんが、一皿に料理人そのものが映し出されるためには、深い知性と、時間をかけて育んだ人間性が必要であると言う意味では、芸術作品と同等の取り組みが必要なのでしょうね、きっと。


道は限りなく遠い。