鮪〜義侠・・・・価値はどこに


今年の三陸の鮪は素晴らしいです。


私ン処では、例年10月末〜11月のこの時期にだけ鮪をメインに使います。お寿司屋さんであれば、鮪がない時期なんてありえませんが、料理屋では「とりあえずの鮪」はなくても大丈夫です。


今の時期の鮪は「とりあえず」ではない、それだけで説得力のある鮪です。


手に入るのは太平洋側東北沖の海が荒れだす前、1週間から10日くらいで戻ってこられるいい漁場を知る漁船のおかげです。この期間なら小船でも漁ができるのですが、海が荒れ始める12月からになると大きい船、しかも漁場遠くなるので鮪の質は変わってしまいます。


回転寿司使われる鮪も、この三陸の鮪も、冷凍のミナミマグロも、大間の本マグロも、皆鮪には変りはないのですが身質も味もそれぞれです。


どれに価値を見つけ、どう美味しいと思うかも人それぞれ、「この鮪うまいなぁぁ」とおっしゃっていただきたくて祈るように使わせていただくのですが、果たしてどこまでご理解いただいているのかどうか、説得力のあるなどと言いつつほんのちょっと不安。


昨日、義侠の純米大吟醸が入荷しました。


兵庫産山田錦 40%精米 昭和58年醸造 冷温貯蔵で18年間寝かせてあったお酒です。


この頃は鑑評会大全盛時代、鑑評会で評価されなければ名蔵にあらずというような風潮があった時代であったと聞きます。


そんな時代に、義侠は鑑評会用のお酒に価値に見切りをつけ、時代に逆行するように自らが美味しいと思うお酒造りだけに専念し始めました。昭和58年というのはその記念碑的な年であるのだそうです。


同時に昭和60年の純米大吟醸も出荷されるのですが、味を聞き比べた酒屋さんの話では58年の力は圧倒的であったそうです。


蔵にわずか19本だけあったもので、そのうち2本、一割を頂戴できました。


冷温熟成でも10年以上経つと少々のひね香が現れ、それが余韻にもつながることが多いのですが、このお酒にはまったくひね香はありません。口に広がる日本酒らしい力強さ、「慶」「妙」などの熟成酒を創り出す蔵ならではの力です。旨みが舌に伝わり、切れ味が素晴らしい。


日本中でこの幸福を味わえるのは何人でしょう。


蔵元山忠さんが「値段は皆で決めてください」ということで・・・・・いいお値段です。


その価値を見出せるかどうかはお客様の舌に関ってきます。