石の上にも三年


「石の上にも三年」とはよく言ったもので、板前修業もとりあえずの三年というのは一区切りになるような気がします。


実際のところ、三年では調理場の仕事が一通り出来るにはまだほど遠いのですが、仕事の目処がたつというのでしょうか、少し自信がついてきて、本格的に職人と呼べるような仕事の入り口に立つような時分です。


以前、たとえば十年前でしたら、三年の辛抱が出来ない若者など少数派、大概はきちっと勤め上げたのですが、今はダメです。全くダメです。


このままでいくと20年もすれば、修行をした板前など無形重要文化財になるかもしれません。


若者だけでなく、いい年をして、かなりの覚悟を公言して勉強し始めたものでさえ辛抱が出来ません。


やめた者いわく「給料が少ない」「仕事拘束時間が長い」「自分の時間が無い」「先輩とそりがあわない」「下働きばかりでつまらない」などなど・・・・


理由と思しきことは「修行」の地道な積み重ねに比べたら微々たることです。


周りを見ると、たくさん遊んで給料をたくさんもらっている同年代の友人達が目に付きます。


2週間の研修で店長になるような居酒屋チェーン。
休みはたくさんくれて、給料もいいけれど、切り身になった冷凍の鰆や、下茹でをして出来あがった野菜、パックから皿に並べるだけの前菜を使う店。


二年や三年で一通りの事が出来て店を開店できるほどの技術であるなら、人にやらせて店舗展開し、儲けることに専念する方が賢いです。職人など夢見ないほうがいいのです。


最初の三年の辛抱さえできない人間が、職人として大成するわけがありません。


意志をもって勉強が出来ない人間が、次ぎから次ぎへと程度の高い店で受け入れてくれるわけがありません。


たまたまこの何年かそう言う若者が続いたのかと思っていたのですが、これは間違いなく時代の風潮です。若者の気質が変化しているのです。


そのおかげで長続きしてくれているものは、人手が足りない分多くの勉強ができます。乾いた砂に水が吸いこむようにたくさんの事を早い時期に教えています。


若者よ、今こそ絶好機です。


辛抱の無いチャランポランが多い中で抜け出る事は簡単です。


志を高く持たず、すぐ意志を曲げてしまうような連中を尻目にするなら今です。