シンコ〜エルメス
寿司ネタとして人気のあるコハダの稚魚をシンコといいます。
夏のシンコの美味さはたとえようもないもので、仕事としても寿司職人の技術の見せ所でもあるのです。
一貫握るのに二枚、小さい物では三枚付け(時には四枚)というほど小さな魚で、かみそりの刃でも使わなければ三枚におろせないのではないかと思うほどのサイズの事もあります。
その割りに魚の原価はそうお高いものではなくて、仕事をした割に値段をいただけない、しかし食べる方としてはお高くなくて美味しい寿司ネタです。
が、
例外的にこのシンコがべらぼうに高い時期もあります。
丁度この時期、日本中で唯一シンコが出始める地元舞阪。
今日、その舞阪のシンコが出ていました。
浜値で1kgニ万円!(最高級の平目で1kg一万円程度です)
初物、稀少価値ということだけでこの値段になります。一昔前は足でトロ箱を蹴飛ばして運ぶほどの魚だったと聞きます。
縁日の金魚すくいの金魚ほどの小さなシンコでした。
東京の高級寿司屋さんが「意地でも使う」という品物です。
「すきやばし次郎」さんの「旬を握る」という本にもその事が書かれていました。
平成八年の最高額が1kg六万円だったそうで、寿司に握って一貫のネタだけの原価が1200円以上。とてつもなく高いシンコです。
でも、採算を度外視して使いたいネタなのだそうです。
女房を質に入れても食べたかった初鰹と同じような感覚といったところなのでしょうか・・・。
一方、その「すきやばし次郎」さんから歩いてすぐのところに開店した「エルメス」
案の定、開店そうそうから女性客でごった返しているようです。
ホンの十数年前、私などエルメスってスカーフとネクタイの店だと思っていたほどの認識でしかなかったのに、今ではそんな私でも、バーキンやケリーバック、アタッシュケースなどの極上の皮製品のことは知っています。
知った上で、それを持つにはまつわる物、身なりから年収、人格まで築きあげないと分不相応なブランドであることもわかるようになってきました。
似合わない方がもつエルメスは、街のおねぇちゃんが身につけるルイ・ヴィトン、グッチ、プラダの十倍は不釣合いな、かえって成金趣味を誇示するような品物ののような気がします。
(私ン処のお客様にはエルメスだけが自己主張していない方ほうが多いのがすごい・・・)
それでもお客は群がり、お手軽なトートバックを買い求めてエルメスを持つことの快感に浸るのです。
シンコのコストパーフォーマンスと、エルメスのコストパーフォーマンス、満足度という点ではあなたはどちらを取りますか?
初物シンコを食べるには分不相応な店に入らなければならないし、エルメスを持つのはそれ自体が分不相応・・・・・どちらも私にはつらい。