ワイン通〜熟成


高名なソムリエ渋谷康弘氏がある雑誌に文章を載せていらっしゃっいまいした。

日本はソムリエにとって恐ろしい国だ。この国には「職業にこそしないけど、その道じゃあちょっと負けないよ」という玄人跣の方々が大勢いらっしゃる。きっとフランスで働くソムリエさえも想像のつかない、高レベルの”ワイン通”がいるに違いない。
 しかし皮肉なことに我々ソムリエはそうした”ワイン通”たちとレストランで日々戦いつづけなければならない。これを恐怖と言わずになんと表現したらよいのだろう。


(中略)


 思い起こせば15年前パリで修行していた頃の私にとって、ワインといえば何をおいてもボルドーのトップシャトーかブルゴーニュグランクリュ。高級レストランの理想的ワインリストとは、権威的なシャトー名が羅列され、ブルゴーニュの優れた生産者が多ければ多いほど素晴らしいものと考えていたし、そのようなリストの作成が、その店のソムリエの能力に比例するとも考えていた。


しかし初めてパリの三ツ星レストラン、タイユバンを訪れた時の事である。タイユバンのワインリストは私を大いに驚かせた。数多くのグランバンに混じり、プティ・シャトーやブルゴーニュの名も知らぬドメーニュ、マイナーなアペラシオンのワインが並んでいたからだ。ワインはヴィンテージ順に整理され、リストを開いた瞬間、どのワインが飲み頃か、まだ若いかが判断可能な効率の良い仕組みになっていた。


(中略)


オーナーのジャン・クロード・ヴェナリ氏の作ったこのリストは未熟な私に、リストの作成で最も重要なのは「熟成に応じたワインの選択である」ことを教えてくれたのだ。


そこで、”ワイン通”と呼ばれる皆様にソムリエとして一言申し上げておきたい。ワインを選ぶ出発点はセパージュや産地でもいいし、造り手の手腕だとかヴィンテージの善し悪しでもかまわない。だが、それらもワインの熟成だけは避けて通れない。まだ若く、未完成なワインをあれこれ語るのはワインに対して失礼、と言う考えだってある。


ワインリストを作成したのはソムリエ自身。ソムリエの言葉にも少しは耳を傾けていただきたいものである。


さらにタイユバンのリストには・・・・ブルゴーニュではヴァレット、ジラルダン、ジャイエ・ジル、ロワールのダグノーなどの優良な生産者が・・・・とあります。


ワインも日本酒も焼酎も同じく、リストを作っりお酒のラインアップを組み立てる人間にはそれなりの思いがあります。


幸いにして私ン処のお得意様たちはその思いに耳を傾けてくださるおおらかさがあります。


幸せです。


が、たまぁぁぁに戦いを挑まれるような”通”がいらっしゃらないわけではありません。


挑まれてもねぇーーー。


それを受け止める更なるおおらかさなくてはならないのですが、私には荷が重過ぎます。