職人


鈴木さん(仮名)というある職人さんがいます。


板前と言えば、一般の皆さんは頑固で、材料にこだわり、いい物しか使わず、調理法にも妥協しないこだわりの塊のようなイメージがあるかもしれません。


が、
鈴木さん(仮名)は違います。


と言うより、一昔前いい職人(板前)というのはそういうものではなかったのです。


専門の分野のあらゆる調理法に精通しているのは当然として、いい品物しか使わないのがいい職人ではなくて、どんな材料でも美味しくしてしまう能力があるのがいい職人であったのです。


例えば、オーナーから3000円で5品のコースを鯛を入れて作ってほしいといわれれば、そういう環境なかで最高の仕事をするのがいい職人であったのです。


「いい鯛を仕入れられ、その素材を100%活かす能力がある」というのも含められますが、そういうのとは少し違うかもしれません。


たとえ養殖の鯛であっても、3000円と言う単価がある以上、養殖と言うハンディを乗り越えてお客様の満足とオーナーの満足を引き出してこそ職人であるのです。


昔ある方に「冷蔵庫の残り物だけでコースをひとつ組み立てられるようでなければいい職人ではない」と言われたことがありました。


そうでなければ雇われません。


鈴木さん(仮名)の仕事を見ていると、調理法の質問をすると、どんなものでも瞬く間に割合を具体的数字でそらんじて、火の入れ方から調味料のタイミングまで完璧に答えられます。


しかし素材についての切りこみ方、思い入れは驚くほど少ないのです。


「いい素材があれば誰だって美味しい物が出来るよ。俺たちはたいしたことない材料でも美味しい物作らなくちゃいけないんだ」とおっしゃいます。


事実、鈴木さん(仮名)のお店はとてもリーズナブルで、仕事自体は一級であると思われます。


私のように技術がまるでなく、素材に頼る事でしか料理が出来ないような板前は、鈴木さん(仮名)のような職人さんから見れば、とるにたらない存在かもしれません。


どちらの仕事がいいのか、優劣ではありませんが、選ぶのは客様です。


もちろんどちらの仕事もあってもこそ料理店が成り立ちます。


さてあなたならどちらでしょう?