日本酒の選び方


昨日の続き。


具体的に、お客様からお酒のご注文があるときどのように選ぶのか?


ある日の二組のお客様を例にあげてみます。


まず一組目。


初めておいでいただくお客様で、個人名の予約ではありましたが、7名というグループ。年齢層は20代後半から40代初め、男女半々、男性はスーツ、女性もキャリアをお持ち風のスーツ姿です。


メニューの見方、ビールの選びから質問の仕方をみると、どうやらご同業、といっても話しの具合をそれとなく聞いていると外食産業の幹部、幹部候補生のようです。


最初の生ビール(ウイーンビール350ml)一杯目から、次の日本酒にいくまでに、料理は前菜、お椀、刺身まで進んでいました。ということは、グループ構成から見ても気の置けない仲間がワイワイ食べて飲むというのとは違うのですが、決して職場の緊張がそのままというほどでもない。「じゃ、お酒を」という注文で、以上の情報量をもとに考えるのは、


☆この後、飲む量
 グループの男女比率、これまでの飲むペース、雰囲気を考えると、一種類を二合づつ、
三種類から四種類を考えればよさそうです。


☆予算
 注文された料理の値段とメニューの見方を見ると、最初はお手ごろなものでも、後半はある程度高価でも納得できる味のものが必要。


☆味
 女性が半分であること、そのうち一人はそろそろウーロン茶になりそうなこと、男性もお酒の薀蓄に花が咲くほどではないことを考えると、淡麗辛口だけでなく、お酒らしさが前面にくるものより香りのあるもの、あまり吟醸酒の経験のない方にも理解しやすいもの、外食産業に携わる方々でありそうなので外食大手が手を出さない希少なもの、日本酒の味の違いが明らかな組み合わせ。


などという選択肢が頭に浮かびます。


で、選んだのが、「十四代 槽垂れ」→「磯自慢純米吟醸 青春」→「黒龍 しずく」という流れでした。


一つ一つのお酒の生産地、酒米の種類、ストーリーをお話しながら、お客様の印象をそれとなく探って、微調整が必要なら加えていきます。


たとえば、「十四代 槽垂れ」を否定的に見られるようでしたら、次の磯自慢は変更しますし、お酒になって飲み方が勢いづけば黒龍から「奥播磨 出品別仕込み」のようにコシのあるお酒を最終に持ってくるようにします。、お客様の味の判断の仕方でどんどん出し方は変化させなければいけません。


初めてのお客様はまず、飲み筋も量もお好みもわかりませんので、手探りで好みを把握することが大事だと思います。料理との相性もさることながら、日本酒の流れを大事にしようとしています。


二組目のお客様。


半年ぶりにお見えのお得意様。日本酒好きであることはもちろん、味の幅も広く、料理、お酒ともに見識豊かなお客様です。


仕入れの時点で、前回、前々回の料理の献立、お酒の出し方、メンバーの構成などは予習を済ませておきます。半年前のお越しでしたら、お酒のラインアップもだいぶ変わっていますのでコースは組みやすくなります。もちろん前回と同じお酒は出しません。飲む量も予算もメンバーを考えれば大体予測がつきます。後はこのお客様のお好みで、フィナーレに何をもってくれば満足度が高いかが一番重要です。


で、
前菜に「ウイーンビール」、お椀に「神亀槽口しぼりたて原酒」、お造りに「能代大吟醸40%三年熟成」、焼き物に「十四代純米吟醸出羽燦々」、蒸し物に「銀嶺月山 万年雪」、鉢物に「田酒 純米大吟醸斗瓶」という具合に決めます。


味をご存知の方にはイメージできると思うのですが、絞りたての純米から、熟成した柔らかい大吟醸、香りの高い純米吟醸から、淡麗で膨らみのある熟成古酒、最後に味に厚みのあるふくよかで力強い斗瓶で締め括ります。


こちらもお酒の流れと、お客様のお好みを考えたつもりのコースの組み立てです。


こういうお酒選びをお任せでさせていただいて、予算も、料理もほぼお任せという店はかなり恵まれています。お客様によっては料理もお酒も自分で決めなければ承知が悪い方もいれば、予算にかなり厳しい方もいます。たぶん、そういう方は私ン処のやり方をみて二度と暖簾はくぐらないでしょう。


まっ、一軒ぐらいこんなわがままな店があってもいいんではないでしょうか。


明日は、さらに視点を変えたコース作りを紹介します。