日本酒の選び方その2


さらに昨日の続き。


今日は料理との相性以外の日本酒の組み合わせ。


先日のお客様の例をとって。


男性お二人でお見えのかなり日本酒への見識の深い方々、お二人がこれまで召し上がってきたお酒は、私ン処以外も含めると膨大な種類で、味に対する理解も多様で柔軟な姿勢をお持ちです。こういう方は、お手ごろなお酒から、高価なお酒まですべてにそれ相応の判断を下されます。


前回お見えの時には、昨日お話したような、お酒の相性と流れを計算した組み合わせ方をしたのですが、今回は変形です。


時期が新酒のシーズンですので、まず様子見に「天狗舞山廃純米無濾過」→「義侠 50%精米 純米吟醸 火入れ」「義侠 30%精米 純米大吟醸 生」、同じ蔵の同じお米(兵庫県加東郡特A地区山田錦)を使って、精米歩合と火入れ、生の違いを試していただく趣向です。同時に並べてお出しします。


次に箸休め的に「能代大吟醸三年熟成」をお出しして。


で、「磯自慢純米大吟醸 愛山」「磯自慢純米大吟醸 ブルーボトル」先ほどが同じお米の製法の違いであったのに対して、今度は同じ蔵の同じ造りで米違いの飲み比べです。


生産地は愛山、ブルーボトルの山田錦共に兵庫県なのですが米が違うとどのような味の違いがあるのか、ここまでくると、料理との相性はとりあえず置いておいて、お料理もお酒も両方美味けりゃいいや、というスタンスになってしまい、ちょっと実験っぽい雰囲気もあります。それでも充分こういう趣向を楽しんでいただける素養をお持ちのお客様もたくさんいます。


磯自慢のとびっきりを二種類飲んでいただいてさらに追い討ちをかけるように「磯自慢純米大吟醸ヴィンテージ35 2000年」磯自慢が誇る最高級クラスをお出しします。


三種類の磯自慢をお出しすることで、その日のお酒の印象が散漫にならずポイントを抑えることができるような気がします。


そして、最後に「菊姫 平成元年記念古酒 菊理姫」とどめの一杯です。


お酒もここまでくると何の料理と合わせて美味しかったという感覚が薄れ、料理お酒それぞれが一騎打ちをするような気分になります。大概料理が討ち死にしてお酒の印象が鮮やかに残って私の負けになります。


こういう風に同じ蔵の数種類の垂直試飲、同じ地方の蔵の飲み比べ、静岡県の蔵とか菊姫天狗舞の似た造りの物、金賞受賞酒の飲み比べ等等等、趣向はいくらでもあります。


やはりある日のお客様の例。


予約の時点でこのお客様は、「ワイン シャンパン」のお話をお伺いしていました。ご一緒のお連れ様がどなたであるかは聞けませんでした。


玄関でお迎えすると、お連れ様はどうやら以前にお話を伺ったワイン好きの女性のようです。


お客様は「白ワインは要らないから、シャンパン、赤ワインを混ぜてお任せで・・・・」とご注文をいただきます。


☆予算
 多くはご接待でお見えになるお客様なのですが、ご自身のワイン暦もかなりの物である以上に、初めて見えたお連れ様は輪を掛けた凄腕(?)らしいこと。上限無しではないけれど、お勧めの時点で予算ばかり気にしたそこそこの物ではかえってお客様に失礼だろうと想像します。


☆メンバー構成
 全員で7名、男女5:2 女性もかなりお強くそうですが、男性の筋は見えない。もしかすると接待かもしれない。「女性向」を考えるより、シャンパン、ワインにはかなりのインパクトとそれなりの説得力が必要です。


☆お酒の組み立て
 シャンパンはノンヴィンテージのものではなくて、ヴィンテージシャンパン。ワインは熟成したボルドー当たりが適当と想像して、間に白ワイン的に飲める日本酒を組み合わせ、お客様の反応を見ながら日本酒のバリエーションを楽しんでいただくという趣向が頭に浮かびます。


で、
まず、サロン1985のシャンパン、シャトー・バロン・フィリップ1982をご紹介すると、満足そうにうなずいていただきました。


サロン1985でお椀までいけましたから、お刺身から赤ワインと言う事で用意しておいたお肉までは日本酒でいきます。


お刺身に「黒龍 しずく」 淡麗で余韻のふくらみがあり、ブルゴーニュの白ワインと対等に張り合える一本です。次に「花薫香 山田穂 純米大吟醸三年熟成生もと原酒」 花のような香り、メロン青りんごの香り、やはり白ワイン同様のブーケを感じる日本酒です。「田酒 純米大吟醸斗瓶」 香り 淡麗では語れない味の幅と奥行きを感じられる日本酒です。この三種類と続けば「おお!日本酒も捨てたモンではないぞ」と納得していただけます。そして赤ワインの一歩前に「奥播磨 出品酒」で日本酒の日本酒らしい良さを強調しておきます。


かなり豪華な組み合わせですが、お客様の趣旨によっては値段よりも味の満足度が遥かに優先する場合もあります。


お任せといわれたときに、そのお客様の求めている値段帯と味の好みのバランスを察知するのがとても重要です。


日本酒だけでなくビール、焼酎、ワインまで入れると料理とお酒の組み合わせは無限大に広がります。それぞれのお客様にケースの違うそれぞれの組み合わせを考えなくてはいけません。


そのためには、お客様の何気ないお話や、身振り、姿、立ち振る舞いすべてが情報となります。ある意味、行動科学、システム科学、シャーロック・ホームズを全部足したような・・・・といったらかなり大げさな言いようでした・・・・実はもっとずーーーといいかげんです。