山廃
「山廃」のご質問をいただきました。店でもよくお客様から「どういうとこ?」と聞かれます。
山の廃鉱で造られた・・・・ではなくて、
山卸廃止仕込みの略称です。
字の通り、山卸という日本酒の製造の過程をやらなくてもよい(廃止する)酒母を使っているということです。
さかのぼれば、江戸時代初期、日本酒は生もと造りで製造されました。
生もととはやはり酒母の名前、日本伝来の培養法で造られたもので、乳酸菌を自然に増殖させ、その乳酸菌の生成する乳酸によって雑菌の汚染を防ぐという酵母培養法なのだそうです。
で、その生もと造りの製造過程で、半切桶という桶に蒸米、麹、水をいれて最初は手で混ぜ、とろとろになったところで、櫂という棒に板がついたものでまぜるという段階があります。
菊正宗のCMで見られますね。蔵人が三人向かい合って桶の前で歌を歌いながら櫂で突いている姿が。この突くという作業が山卸です。
ところが明治の末期になって、あらかじめ、ある麹を仕込み水に加えて麹の酵素を溶かし出して、それを蒸米に加えるという方法が発見されました。その方法と酵母を使うと山卸はやらなくてもよくなったのです。これが山卸廃止もとの誕生なのだそうです。
現在、酒母の95%はすでに生もと系酒母から速醸系酒母といって、あらかじめ醸造用乳酸を添加してあるものを使っています。
山廃もとのように生もと系の酒母を使う製造法では、乳酸菌を自然増殖させるために、温度管理が難しく(悪玉乳酸菌は10度以上で増殖するらしい)もとが出来上がるのに、速醸系酒母の7〜15日に対して30日くらいはかかるといわれます。
しかし、じっくりと出来上がる分、濃厚でハードな酒ができるわけです。
仕込みの難しい山廃が立派にできるようになれば、杜氏さんも一人前と聞いたことがあります。事実、山廃に挑戦するのは大変な努力が必要なのだそうです。
最近は紙パック入りのお酒にも山廃の表示があったりします。
酒のラベルに山廃とあって淡麗なあっさりしたお酒であれば、??と思わざるを得ません。
私が個人的に好きな山廃はやはり菊姫、天狗舞、加賀の両巨頭です。
昔、菊姫の山廃純米無濾過生原酒のパワーに圧倒され、さらに山廃吟醸(赤ラベル)の切れとコクに心酔していた時期があります。
もちろん菊姫は今もいい蔵ですが、そのころの杜氏さん農口尚彦>さんが菊姫引退後、鹿野酒造に請われて移られ、さらに山廃に挑戦されています。
平成14年には山廃超吟醸が世にでるとか。
楽しみです。