今月のお椀のメインは蟹の真蒸し(まむし)です。シンジョウともいいます。


まっ、蟹入りハンペンみたいなものです。


上質な魚のすり身を山芋、昆布だし、卵白、上新粉で柔らかく伸ばして、蟹のほぐし身を入れて85度の蒸し温度で20分蒸します。


すり身が美味しいことも大事なのですが、蟹も美味しくなくてはいけません。


これはひたすら手間だけです。


魚屋にはほぐした蟹の身のパックや冷凍、蟹缶も売っていますが、活かしのズワイ蟹やタラバ蟹の茹でたてをほぐしたものとは味が違います。


吉兆さんに秋に伺ったとき、大阪高麗橋でも京都嵐山でも先付けに渡蟹の和え物がでました。


もちろん、蟹は身だけになっているのですが、蟹の身質が素晴らしくて、間違いなく最上級の渡り蟹をほぐして使っているのであろうと容易に想像できました。


「渡り蟹のリングイネ¥1800」くらいで使う蟹とは別の食材です。


貧乏性の私などでは、こんないい蟹を使っていたら、殻ごと「どうだ!」ってナ具合でお客様に出してしまいそうで、店の格の違いを思い知らされたものです。


いい食材を使うこと以上に、お客様の見えないところで手を抜かない、手間を惜しまない、というのは人件費、原価以上に、気持ちの上で職人が大切にしなくてはいけないことです。


パック入りの蟹と生の茹でたての蟹、真蒸しの中に混ぜ込んであれば、どちらでもお客様にはわからないという気持ちが少しでも芽生えたら、私の店の存在意味は無くなってしまいます。


と、意地になりながら、今日も蟹の身をせせっています。


PCの前に座っている時間があるなら、もっといい仕事ができるだろうっていわれたらどうしよう・・・。