お椀
お椀というのは、先付けや前菜のすぐあとにくる大事な品物のひとつです。
蓋をあけたときの「おっ、何だろう?」とか「華やか---」とか思うインパクトが、料理に対する期待感を膨らませてくれれば言うことありません。
昔の言葉に「椀刺」(ワンサシ)というのがあります。
お椀と刺身で料理人の実力がわかるという意味、お椀と刺身がもっとも重要、などと言う意味のようで、お椀の位置付けがよくわかります。
で、
今月のお椀
「穴子奉書巻き 双身椎茸 銀杏豆腐」
穴子は江戸前の活け締め、裂いて白焼きにして、厚めのカツラむきにした大根で巻き、かんぴょうで結びます。出しに追い鰹、昆布を足してゆっくり煮ふくめます。
巻き海老の皮をむき、包丁でたたいて荒めのミンチにして椎茸の裏面にぬります。それを一度焼いてから出汁で煮ふくめます。
銀杏の殻をむき、ゆであげてから薄皮をとり裏ごしします。昆布だし、本葛、銀杏の裏ごしを鍋にかけ胡麻豆腐と同じ要領で練り上げ、流し缶にいれます。
ここまでが下ごしらえ。朝の仕込みで仕上げておきます。
それぞれを温めて椀に盛って、直前に引いた出汁(利尻昆布 血合い抜きの鰹節)をはります。
もちろんお椀は熱湯で温めてから使います。
穴子は冷凍や裂いて売っているものではだめですし、海老も冷凍ですと臭みがでます。
銀杏も缶詰や殻をむいてあるものでは風味が出ません。
「まあ、これくらいで・・・」というちょっとした手抜きをすると、お椀の形がガラガラと崩れてしまいます。
ワサワサと食べてしまえば、二口三口でなくなってしまう中身も、手をかけてあげて初めて本来の味になると思います。
手をかけすぎて、分けのわからない料理になるというのはもっと怖いことでもありますが。