お酒にまつわるストーリー

私ン処で扱う日本酒、ワイン、焼酎には作る人の顔が見えるような、小さな造り手のものがたくさんあります。


そういうお酒はおいしいこと以上に、ストーリーがあります。


お酒をお客様におだしする場合、お客様に日本酒のデータをお話するべきか、ストーリーをお話すべきか、もしくは何もお話はすべきでないか、さまざまなケースがあります。


初めておいでのお客様は、どのケースに当てはまるのかはまったくわかりません。


店に入ったときの様子から、メニューの見方、ちょっとしたお話具合、料理に対する印象などなどなど、探るというと言葉は悪いですが、何がお好きなのかを推し量ることは、お酒そのものを選ばせていただく以上に大事だと思います。


お任せをいただいて、日本酒をお持ちしたとき、ラベルを覗かれたり、「どこのお酒ですか?」などとご質問をいただいたときには、どこで造られているものか、酒米の種類、酵母のことなどをお話した上で、さらに興味を示していただけるようなら、酒にまつわるストーリーをお話します。


先週のはじめお見えになった、東京からの仕事がらみお客様。
清泉の「亀の翁」の話、剣菱のラベルの由来、菊姫のお話などお酒に関わる薀蓄話がお好きでいらっしゃる様子で、ワインとなるとさらに堰を切ったように詳しいお話をされました。


こういうお客様には、私がストーリーなど語る必要はまったくありません。


お客様のお話をお聞きして、うなずいて、知らなかったことはご質問して、それだけで十分です。


帰りに「やーー。君はお酒くわしいねぇ。楽しかったよ」と。


実際に私など詳しくもないし、話していなくて聞いていただけなのに、店の印象は悪くはなかったようでした。


昨日のお客様、「日本酒は冷や(ひや)でしょう」(冷酒ではない)「辛口のすきっとしたのこそ良いお酒」「高けりゃいいおさけじゃない」などのお話を小耳に挟みながら、八海山純米吟醸をおだししました。


それでも「こういう甘いやつは好きじゃない」と聞き、頭を抱えながら次の酒を選んで、多くは(というより全く余計なことはしゃべらずに)お話せずに引き下がりました。


さまざまな角度でお酒を楽しみたい方、酒を通じて自身を語る方、語られるのが邪魔な方、結局、お客様ご自身にとって私ン処で過ごす時間が楽しいことが最優先されます。


それを、見極めて千差万別に対応できればよいのですが、まだまだ、ただの「講釈の多いやつ」でしかない自分に日々恥じ入っています。


料理を作る以上に、サービスは奥が深い。