料理の値段


店にとって料理の値段設定、メニューの設定は大きな問題です。


なにより、自分が何をしたいのか、どういう店にしたいかを、考えなくてなくてはなりません。


それにも増して、お客さまがその値段で来てくださるか?自分の技術がそれに見合っているか?周辺の器、お飾り、店の作り、従業員のサービスのバランスが取れているか?


などなどなど、様々な要素が複雑に絡み合っています。


立派な値段をいただく店で修行しても、一人立ちして、即、修業先と同じ素材と料理方法、値段で勝負できる料理人はほとんどいないと言っていいでしょう。


たいがいは、上を夢見て、先ずは誰でもが気軽に来ることができる店作りを目指すものです。


それでも、いきなり、自分のしたい仕事をそのまま実現してしまうすごい料理人もいることはいます。やりたい仕事に後から値段がついてくる・・・・板目冥利に尽きます。


私の父は、高い値段、高級な素材、高い酒が大嫌いでした。


そこそこの品物、そこそこの料理。


が、商売としてはとてもうま味のある仕事をしていたような気がします。


子供というのは父親に反発しながら生きていくものです。


親の仕事を勝手に反面教師にしてしまった私は、単純なおバカなのですが、十数年溜まっていた反対のパワーを、父親の死と店の新築で一気に出してしまいました。


とはいうものの生来の貧乏性と気弱な性格です。


料理の値段を少々あげたとはいえ、この値段で浜松のお客さまが来てくれるだろうか?店を継続していけるだろうか?果たして内容は値段に見合っているのだろうか?自分の技術は素材を生かし切っているだろうか?


と、毎日が不安であります。


職人として、技術がおぼつかないところは、なんとか素材でカバーしなくてはならないことは重々承知しています。


「うまいなぁ・・・」と思わせるのは、なにより素材のよさによるものだという確信もあります。


さらに、素材の持ち味を活かそうと思うと、必然的に仕事は丁寧でも単純になり、値段なりの理解をいただきにくいことも感じています。


それでも、やっと長い時間を掛けてここまで来た以上、私の料理の基本は自分が「うまいなぁ」と感じるものをお客さまにお出しすることです。


お酒も、やはり自分の舌に見合うものだけを置きたいと思います。


素材的にも、器的にも、値段的にもやっと自分のやりたい仕事の60%くらいまで到達したに過ぎません。


ある匿名の方に掲示板で、私自身が「本物」でないことをいみじくも指摘されました。


幸いにも、お客さまは「本物」をご存じの方々にたくさん寄っていただいているように思えます。


残りの40%を達成して、自分は満足いく仕事を日々積み重ねていても、自分自身が「本物」でなく、「本物」を理解できないようでは、生涯悔いの残る板前人生となります。


そう、
この際ですから、「本物」などという言葉は忘れましょう。


私が未熟であれどうであれ、自分自身の感性と舌だけを頼りに一段、一段仕事を向上させていくことだけをしましょう。


ご支持を。