子羊


子羊を使いたいと思ったのは、30年くらい前。


フレンチの名店「アピシウス」の高橋調理長が焼尻の子羊だけを使っていると聞いて、焼尻の役場まで電話をしたりしたのですが、数量が少なくて当時は入手が全く無理でした。


で、


子羊のおいしさを初めて知ったのは15-20年くらい前、フランスボルドー ポイヤックの子羊が手に入ったときでした。


当時、私たちでも手に入っていたニュージーランド産とは全くの別物。フランスで肉と言えば子羊を最上とするという意味がはっきりわかりました。


が、
三〜四年後、口蹄疫で輸入がストップして以降入手ができなくなったのですが、数年前、十勝産の子羊が手に入るようになって、再び子羊が献立にのぼるようになりました。


鴨でさえ足があるとさばくのが苦手でしたので、四つ足は魚と違ってかなりの強敵でした。ほとんど毎回格闘。


ちゃんと習ったことがあるわけではありませんから、さばいては食べ、さばいては食べて確かめていきました。






普通、羊は匂いもなかなかのもので、一頭さばくと一日中調理場に匂いが抜けないものだったのですが、この子羊は匂いは皆無。内臓でさえ「香り」しか感じません。


お客様も「えっ?これが羊なの? 匂いないよぉ」とおっしゃってくださいます。


聞けば、生後一年のラムとフォゲットの中間くらい、餌も選んだものだけを与えているのだそうです。加えて日本人の繊細さが細部にまで行き渡って極上のお肉に仕上がっています。


こういうお肉は単純に焼いて、骨からフォンをとって煮詰めてかけるという単純な料理法が一番のような気がします。


優れた食材を前にすると料理人はできるだけ手をかけないというのが鉄則です。