音楽と小説
音楽が小説に深く関わる作品はたくさん存在します。
この数年で触れたものの中にも奥泉光「シューマンの指」 藤谷治「船に乗れ」「世界でいちばん美しい」 須賀しのぶ「革命前夜」 熊谷達也「調律師」 宮下奈都「羊と鋼の森」(未読)
キリがありません。
が、
小説内に現れる音楽を聞かなくてはいられない衝動にかられる小説となると、昨年読んだ平野啓一郎「マチネの終わりに」と今年になって読んだ恩田陸「蜜蜂と遠雷」が圧巻でした。
この二小説では、そのシーンに同曲を鳴らしているかどうかで心の満ち足りた感触が段違いなのです。
さらに言えば、この二人の小説家の音楽への造詣の深さと、音を文字で表現することの卓越した力は群を抜いています。
平野啓一郎氏は「葬送」で描いたショパンの楽曲でその力技を見せつけていましたが、「マチネの終わりに」では主人公二人の結びつきに大きな影響を与えたブラームス 間奏曲op118 二番の描写が特に印象に残ります。
浅学な私はこのブラームスのピアノ曲を知らなかったのですが、調べるうちに、この若いピアニストの演奏にぞっこんになると同時に、これほど美しい曲を知らしめてくれた平野氏の選択に深く感謝し、曲の持つ美しい調べが主人公の過去未来を現すという意味でも聴かないで読み進めることはありえないと思いました。
恩田陸「蜜蜂と遠雷」は私の地元のピアノコンクールをモチーフにしている長編ですから、現れる楽曲は膨大。おなじみの名曲あり、未知の曲ありで、その都度、読むのを中断して動画で曲を聴きながら再び小説に戻るという作業がなんと幸せなことか。
昨年初めて知った事実なのですが、恩田陸は私が学生時代に所属したジャズバンドの後輩でもありました。
クラシックの素養もさることながら、ジャズの分野でもそのバンドに所属することイコール、アマチュアバンドの美味しい体験はほとんどさせていただけるようなバンドでしたので、学生時代にジャズに関わることで得られる感性は同じように体験していると思われます。
音に感動すること、曲を理解すること、演奏から得られる心の震え、観客と演奏者との関係・・・などなど、同じバンドで得た共通の言語のようなものは出身OBと話すたびに感じることです。
しかしその音楽の感動を文字にし、エンターテイメントとして披露することの凄さ、直木賞と二度目の本屋大賞に十分に値する偉業でした。
音楽も小説も繰り返して触れることの感動を実感している今、「マチネの終わりに」は三回目「蜜蜂と遠雷」は二回目の再読の喜びに浸っています。
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