おだやかな仕事


主に首都圏では、人気のある飲食店の混み具合は尋常ではないと聞きます。


しかもその人気は口コミによる力強いものというよりもメディアによる爆発的なモノであるようです。


ラーメン店は行列ができてやっと事業として成り立つらしいですし、高級店は一ヶ月先の予約までうまって人気店と呼ばれるのだとか。


「情熱なんとか」「プロフェショナルなんとか」で取り上げられるのがその典型なんでしょうか。。。


しかし、そうやって集まる客達は一過性の方々でお得意様にはなりにくいのかもしれません。予約が取りづらければお得意様もできにくいとも言えるかも。


そういう飲食店のあり方を疑問視しつつも、片方では「忙しくてうらやましいなぁ」という思いもほんのちょっとあったことも偽らざる気持ちでした。




1981年に出版された「男の料理 コツのコツ」(小学館)を本棚から取り出して眺めてみると、当時の名店が四十店ほどズラズラ並びお店の名物を写真とともに紹介しています。


すべての店が私でも知っている当時の超名店ばかりなのですが、35年経た今、同じように名店と知られる店は4−5軒を除いてほぼありません。


これらの名店は現在のような喧噪的な人気ではなくて、しっかり根付いた人気だと思っていたのに、現実は閉店も含めて見る影もないのです。


このことを考えたら現在のバブルで踊り狂っていた若者に支持されたのと似た劇混みをさばいている店の20年後はどうなってしまうのだろう?と冷静になってみて、「うらやましさ」はしぼんでいきました。


メディアで火がついて我も我もという人気が飲食店にとって正しいモノなのか?


口コミや紹介を通じて店を知っていただき、「裏を返し」「馴染み」になっていく本来のお得意様を得て、地道に美味しいモノだけを作っていこうとする姿こそが息の長い料理店を作る姿・・・って誰が考えても当たり前なのに、「超人気」に踊らされたり、それに憧れたりするさもしい心持ちが片隅に現れたときが危ないのかもしれません。


店の90余年の歴史はそうやってできてきたはず。


常に身綺麗に手を洗い続けることを忘れないようにしなくては。家族が生活できる収入を得て、理想を追える楽しい仕事ができるっていうこと以上を望まないことが大事です。


といっても、メディアで取り上げられるような兆候はみじんもありませんし、ミュシュランだって地域外。超人気が出る芽は100%ないわけですが。