技術以外のこと


料理を生業とするためには技術以外のことでも学ぶことはたくさんあります。


単純な居酒屋さん、定食屋さんであれば、魚屋 肉屋 八百屋 酒屋 それぞれ一軒づつ付き合いで十分なのでしょうが、昨今の特徴のある店を目指したいのであれば、それぞれに一軒では全く間に合いません。仕入れ先は細分化され、さらに一軒づつの食材屋さんと綿密な長い付き合いをする心構えが必要です。


例えば、私の店では、毎朝確認する魚屋が三軒、早朝出かけていい仕入れをするためには目利きの術(すべ)を持たなくてはなりません。野菜は一般的な野菜と京都他の野菜を扱う仕入れ先、地元の農家さんとのお付合い、全国各所に散らばる有能な農家さんや山菜名人 キノコ名人とのお付合い。肉類も一般的な肉屋さんの別に、ジビエ他特別な肉を扱う業者さんとのお付合い。酒屋さんに至っては特別なビール、日本酒だけで四、五軒、さらにワイン、さらにさらに焼酎。そして乾物屋さんが四軒、特殊な豆屋さん、珍味屋さんが三、四軒。味噌屋さん三軒。などなどなど。


それらは一週間とか一ヶ月のスパンでできた仕入れルートではなく、何年もかけて地道に築いた人間関係で獲得した得難い店々ばかりなのです。それらは調理学校ではもちろん、netや雑誌で簡単に教えられるものではありませんが、例えば私の元で勉強した若者であれば、その築いた仕入れ先との関係はそのまま伝えられるはずです。そして一つ一つの素材との付き合い方や目利きも学べることは当然です。


さらに例えば飲み物だけを例にとってみましょう。


今日本料理店では、普通のビール、ナショナルブランドの日本酒、誰もが知っている焼酎だけで商売ができる時代ではなくなっています。


それぞれの飲み物に対する見識と味わう力、お客様にプレゼンする能力、ラインアップをまとめる知識と舌が必要です。


これももちろん学校やnetで簡単に学べるものではありませんし、仕入れルートの開拓能力も情報収集力も一朝一夕で手にすることができるものではありません。


近年特に重要になりつつあるこれらの分野を学ぶのは現場が一番であることは間違いなく、お客様と接し、酒屋さんと接することで身につけられる大切な力なのです。


私が料理修行をした時代には考えられなかったこんな分野の仕事も、料理人が持っていなければならない大切なファクターになっているのですね。これこそが、現場で修行して身につけることがらなのです。