ある日 仕出し弁当の注文の20個は前日に仕込みをすませ、当日一時間半をかけて調理がほぼ完成し、後は盛りつけるだけとなりました。


予約の時間の三十分前、予定通り仕上がりそうです。


そこに電話がかかります。


「注文をした○○です。悪いんだけど今朝のお弁当もう一つ追加で21個にしてくれない」




「ええ!」とは言ってはいけません。


「もう盛りつけるだけになっていますので。。。追加は。。。」とも言ってはいけません。


「お弁当は棚からおろして、はいどうぞ、っていう訳にはいきませんから」なんて口が裂けても言ってはいけません。


「やなかんじ」の微塵もみせてはいけません。


穏やかに軽やかに


「はい、かしこまりました。ありがとうございます」だけでいいのです。


今はそれなりに人間も練れてきたのですが、若い時分は特にアホでしたから、すぐに顔に出る(声に出る) 「ええ!もう完成間近なのに」の雰囲気が隠せないことがありました。


十数種類のこまごまとした料理をいれる幕ノ内弁当の調理の手間は、30個つくるのもの5個作るのも同じで、若干の仕上がり時間の差はあっても追加は一から作り始めなければいけません。


ロスのないようにご飯もジャストで仕上がっていれば、一個のためにご飯は30分で間に合うのか? 大根の煮物は仕上げるのに最低1時間半はかかるのに、さて間に合うのか? 折り箱の注文は間に合うのか?


などなど、綱渡りのような仕事は一個の追加のためにふくれあがるわけですが、注文は注文。ありがたくありがたく受けるのは当然のことなのです。


理屈ではわかっていても、若い頃には「ええええ、きついなぁ」の雰囲気が電話でさえ、相手に伝わってしまったことがありました。


店が暇で一個の注文でもありがたいときには気持ちよく注文が受けられても、忙しい日が続いて気持ちの上で調子こいてしまっているときには「おごり」が身体からにじみ出てしまうのですね。


今振り返ると冷や汗がでるような対応をたくさんしてしまったかもしれません。



というわけで


若いスタッフに大きな自戒の気持ちをこめて、こういうときは難しくても「はい、おやすいご用です。ありがとうございます」が伝わるようにしなくちゃね。と言い伝えたのであります。


若い料理店経営者、スタッフの皆さん できてますか?


私は本当にダメダメだったけれど、やっと最近できるようになってきました。