お酒選び


お客様に喜んでいただけるお酒選びってどんなものなのか、料理人としての私の永遠の命題です。


「美味しいお酒」


であることが第一命題であることは間違いないのですが、一見のお客様の味の好みを探るのは容易ではありません。



味わい以上にお客様にささるのは心の問題です。


たとえば、出身の地のお酒であるとか、父親が好んで飲んでいた蔵であるとか、一度訪ねて手厚いもてなしを受けたことがある蔵であるとか、以前に美しい方と飲んだ思い出の酒であるとか。


ご自身の出自に関わったり、思い出に関わるお酒は、一般的な味の評価を越えたところで心に響くものです。そういうことが推し量れる蔵のお酒が手元にあったときには、迷わずにお客様にお出しします。そして、まつわるお話を聞くことができれば静かに伺います。


そこまでできたとしたら、ほぼ完璧。


お酒も間違いなく「美味しい」と心に残りますし、店の印象も数倍よくなります。


ですから、お客様同士の会話の流れにそれとなく耳を傾けていたり、スタッフに気になったことを調理場で伝えてもらったりすることは日常的にしてます。



たとえば、あるお得意様は金沢の大学のご出身で、彼の地で数々のいい思い出があることを知り、お越しになるときには必ず能登杜氏のお酒(ちょっとコアなものの含めて)必ずどこかに挟むようにしています。


またある一見のお客様は出身が藤枝と。。。藤枝ならば、希少酒を多く手元に置いていましたので、お酒と共に若い頃のお話もお伺いできて、心地よい酔いとともにお帰りいただきました。


そこでは「銘酒だから」「希少酒だから」是非に。。。は問題ではなく、心に寄り添えることができることが一番大事なのです。



味わいのキーポイントは舌よりも心であることを肝に銘じています。