芸者衆


「芸者」と呼び捨てにするのには抵抗がありまして、「芸者衆」(尊称ではないんですが)と少し柔らかく呼びたい・・・というのは、料理屋という家に生まれ育ったからなんでしょうね、子供の頃にはお座敷の三味線の音が子守歌で、正月には帳場をウロウロしていれば出入りの芸者衆からお年玉をたくさんもらえたという世代だからです。


今では普通に会社勤めをしていたら、芸者衆と接点を持つと言うこと自体希なことになってしまいました。実物は映像でしか見たことがないという方のほうが遙かに多いのではないかと思われます。


私は商売柄、少なくなったとはいえ一応芸者衆とも接点がありすし、彼女たちから「おにいさま」(料理屋の主人はそう呼ばれます)と呼ばれる存在でもあります。


芸者衆は地方都市ではおそらく絶滅危惧種になり、世間一般では京都祇園くらいしかイメージがわかない、自腹で芸者衆の入るお座敷を持つなど感えられないというのが普通でしょう。



そんな中、破格の名著に出会ってしまいました。


花柳界の記憶 芸者論 (文春文庫)

花柳界の記憶 芸者論 (文春文庫)


岩下尚史さんを初めてTVでみたのは、「タモリ倶楽部」が東京郊外のひなびた温泉を取り上げたときでした。


キャラがたった凄い人が出てきたモンだと驚いた記憶があるのですが、つい先日「BS歴史館」に出演している姿を久しぶりに見て、「ああ、そういえばこの岩下さん、著作が和辻哲郎賞をとっているはず」と思い出して書店に足を運んだのでした。著作を読むまでもなく、TVでの発言を聞けば明治〜昭和の芸者芸能文化とそれにまつわる諸事への造詣の深さと見識の豊かさは並みではないことがわかります。


著作ではその見識は江戸期に遡った研究と、大正期からの名妓たちへのインタビューに培われた奥深い内容が語られています。そして当然のように話は芸者だけでなく、それに関わるお茶屋 待合 料理屋におよび日本の接待文化がどのように形成されてきたのかを読み取ることが出来るのです。


これは料理屋の端くれとしては耳をそばだてずにはいられません。


料理屋を料理を楽しむためのものとして真っ当にお使いの方には「なんのこちゃ?」と思われる内容なのですが、放っておけば日陰で(本来日陰ではないはずなのですが)忘れて去られてしまう文化を確実に文章で残した偉大な功績を讃えずにはいられません。語り口も含めて近来にない名著です。