食品偽装 ホテルの事情


一流のホテルを使うのが好きです。


宿泊だけでなく、食事でも、ちょっとしたお茶でも、会議でも、待ち合わせでも。田舎モンの私などは、ホテルに入ると言うだけで気分が高揚し特別な時間を持てるような気がします。


真夏であってもホテルのロビーに入るときにはジャケットを着ていないとちょっと気後れしてしまいそうな感じ。高級感を楽しむという意味では一流ホテルの存在は未だ健在です。



食品偽装の問題を取り上げるとき、素材の偽装は高い値段のブランド力に問題あり。。。という論調を目にしますが、たとえば食事に対してだけでもホテルの単価が高いのは、ブランドという名前ゆえに高いと言うだけでなく、実際に一軒の高級ホテルが街を形成するように全体を維持するためのコストが一般的な単体の料理店よりも高くつくからゆえの値段です。


一等地に広いスペース、24時間常に稼働している形態、きめ細かなサービス、安売りに陥らない飲食。。。。高いレベルのサービスを全体に施す人件費だけでも大変な費用がかかるのがホテル経営です。


私が高いレベルのホテルが好きなのも、それらが私自身の顧客としての満足として感じられるからで、それ故の高い値段は当然のことと思っています。





そういうホテルの調理部門の原価率は街場の料理店よりも高く設定しなければならず、利用者は「高いなぁ」と思うか方も多いわけで、高い原価率をカバーするために現場で調理長の指示のもと偽装が行われたと思っている方もいらっしゃるようです。


ある評論家が「飲食業界は特殊で、調理長の権限が絶大です。調理長の意に添わなければ、”総上がり”といって調理場全体でやめてしまうこともあるんです。ですから、今回の偽装問題でも調理長の果たした役割は大きいんじゃぁないですかねぇ」と発言していました。


これって実は時代錯誤の認識です。


問題になっている大手のホテルや飲食店ではいまどき”総上がり”なんてありえません。ホテルの調理長なんて、実際は中間管理職。いつも原価率を厳しく管理部門から査定され、使いたい食材なんてほとんど使えないという現状を現場からよく聞きます。大きなホテルの調理場の多くが、仕入部門はスーツを着てPCを操る頭のいい方々に取り仕切られ、献立やフェアは企画会議で決められ、自分の裁量はかなり限定されているのが現状なのです。


第一、気にくわないから”総上がり”なんて辞めていたら次の職場は決定的に見つかりません。ついてくる若い者も含めて路頭に迷うだけ。



一流のホテルの料理人であれば、いい食材を使いたいと思うのは当然のことです。しかしながら仕入れは自分の思うままにならず、一般の料理店より高い原価率と、少しでもそれをオーバーすると業務上の失態と評価され、グランドメニューの内容や使う素材、表示は企画会議で決定され、企業としての経済効率と利益目標の歯車として働かなくてはならない。。。。


私には絶対に出来ない仕事です。