お節料理その1


お節料理の注文の受付を始めましたので、料理のことを書き連ねてみましょう。


仕込みに時間がかかるためにクリスマス後の早い時期に仕事を始めるのが、まず黒豆です。


使うのは丹波産の黒豆。


とぎ汁に一晩つけると倍ほどの大きさに膨らみます。


とぎ汁をあらってたっぷりの水から茹で始めます。




朝から茹で始めて深夜まで最低でも16時間、その年の豆の出来によっては20時間、ふつふつと静かに茹でて、普通に柔らかくなったな・・・という段階からさらに5時間・・・というくらいで、指先で軽く押しつぶせるほどに柔らかくします。この時点で柔らかさに妥協があると、蜜に含ませてからどれほど焚いても蒸しても柔らかくはなりません。



真っ黒だった豆が薄茶色に変化します。


一晩寝かせて、水を取り替え、ざるにあげて蒸して豆の温度を上げます。その間に薄蜜を作り、こちらの温度も上げていきます。




蒸し上がった豆の水分を切り、熱い蜜の中に投入、パラフィン紙で落としぶたをして静かに焚きます。



黒豆の皮にしわがよらずに仕上げるために最大の敵は、急激な温度変化と空気に触れることです。その二つを避けるためにきめ細かな作業を繰り返さなくてはならないのですね。


密で焚いた黒豆は一晩寝かせて、新しい蜜の中につけます。蒸した状態の黒豆には水分がたっぷり入っていて、蜜で焚いて冷ました後にその水分で甘みが薄まってしまいます。そこで二度漬けにするわけです。仕上がるのはそこからもう一晩寝かせた後。仕上げるのには四日間かかります。


わぁぁ。。四日もかかって大変、とは私たちは全く思いません。18時間焚こうが、四日かけようが、その時間を常につきっきりというわけではありません。要所要所で失敗が許されない集中した手仕事が必要ですが、四日間緊張がずっと続くわけではありませんからねぇ。放っておいていい時間もたっぷりあります。


とはいえ、ちょっとしたミスで高価な丹波産黒豆 数万円分が一気に台無しになる危険もあります。なにしろ板前経験35年ではありますが、大量の黒豆を焚くのは年に一回のみ。30回ほどしかやっていないのです。卵焼きを何千本焼いたというのとは経験数が圧倒的に違うというのはやっぱり集中力も必要なんですね。


黒豆の焚き方は、10人の板前がいれば10通りの違う作業があるといわれるほど職人によって仕事が違います。さて、お宅で召し上がる黒豆はどんな味?