きっと何かの間違い


先週末 こんなニュースがネット上にありました。


要旨はTPP交渉で酒の関税撤廃が提案される中、「世界に日本酒を」の動きがあるけれど、前途は多難である・・・ってことをいいたいのでしょうが、net上とはいえ、いくつかの事実誤認と、本当ならえらいこったという情報が混じっていました。


こういう記事ってすぐに見られなくなるので、読むのが少々面倒くさいですが、全文を載せてみます。






TPP交渉での提案決定、「関税撤廃で日本酒を世界に」は現実を知らない絵空事

日本政府は、環太平洋経済連携協定(TPP)の関税交渉に関して、日本酒の輸入関税を撤廃する方針を決めた。同時に日本からの輸出に関しても参加国の関税撤廃を求めていく。日本酒もワインに並ぶくらいの世界的にポピュラーな酒にするという戦略だという。

 アルコール離れが進むなか、酒造会社にとっては海外市場開拓の援護射撃になると歓迎すると思いきや、「特にうれしくはない」(ある酒造会社の役員)。

 理由は、TPPで最大の市場となる北米での販売増が見込めないためだ。この酒造会社の役員は「米国、カナダには日本酒の流通システムが整備されていない」と語る。

 北米向けでは、すでに大手の酒造会社が輸出したり、カリフォルニア米を使って現地生産したりしている。しかし、これらはいずれもひどく薬臭い。理由は、防腐剤が大量に入っているため。防腐剤が必要なのは、輸送と小売の両方にその原因がある。

 まず、輸送。輸出の場合、船で数か月かけて運ぶ必要がある。さらに、トラックで大陸を長時間、輸送しなければならない。この間、酸化を防ぐためには防腐剤を大量に入れる必要がある。現地生産でも、長時間のトラック輸送が必要なことに変わりないので、やはり防腐剤が必要だ。

 次に小売。そもそも、日本酒は、スーパーで簡単に手に入るというものではない。宗教上や治安の問題から、リカーショップでしか日本酒は買えない。しかも、リカーショップは平日の午後6時までしか開店できない。土日や、会社帰りには買えないわけだ。そうすると、どうしても回転率が悪くなる。そこで、小売段階でも防腐剤が必要になる。

 どうしても家で飲みたい場合は、「日本料理店などで、店の売値で譲ってもらうのが一般的」(カナダに住む日本人)だという。

 このような流通システムでは、「日本で飲む日本酒のような防腐剤が入っていない酒は、売れる前に酸化してしまう」(先の酒造会社役員)。また、防腐剤入りを販売しても、「まず、日本人が飲まない。北米の人々も本物の日本酒の味を知っている人ならば、まず、飲まない」(同)。味を知らない人でも、「防腐剤がきつすぎて、なかには、体調を崩す人もいる」(同)そうだ。

 防腐剤なしの日本酒を売ろうとした場合、輸出関税が撤廃されても、「せいぜい、現地の日本人の経営するレストランや居酒屋に直接、卸すしかない」(同)のが現実。これでは、販売先の開拓に相当の労力が必要なうえ、大きな収益も望めない。

 ちなみに、ワインには、こういった問題がないそうだ。製造過程で酸化を防ぐために防腐剤を入れる必要があるため、世界中のワインは、防腐剤入りが普通で、味を比べようがないだからだ。日本酒の世界普及の道は険しい。(編集担当:柄澤邦光)








最後の「世界中のワインには防腐剤が入っている」というのは全くの事実誤認。防腐剤ではなくて酸化防止剤。この件に関してはずいぶん昔に板前日記(http://d.hatena.ne.jp/clementia/20040505)にも書いていますので省きます。(この部分だけでもたくさんの議論が起きそうではありますが)


それよりも驚いたのが、アメリカで日本酒を流通させるためには防腐剤が必要であると明記されていることです。


「ある酒造会社役員」の言葉としか書いていませんので、取材元は明らかではありませんが、日本酒酒造会社の役員であれば、数ヶ月単位の輸送保管くらいで日本酒は酸化しないことは理解しているはずです。生酒や吟醸系のお酒は温度管理が必要ですが、一般的な日本酒であればワインよりもずっと環境変化に強い物です。日本の厳しい暑さでも耐えうるのですから。


さらに一番恐ろしいのは酸化を防ぐために防腐剤を大量に入れていると書かれていることです。


防腐剤は昭和40年代に日本では添加を禁止されました。万が一輸出用のお酒にだけ防腐剤を入れているとしたら、日本での禁止添加物を輸出用には使っているとして国際問題になってもおかしくはありません。ずっと昔、ドイツワインのごくごく一部にに防腐剤が入っていたとして、人気であったドイツワインが一気に売れなくなり、その痛手から立ち直るのにずいぶん長い時間がかかったことが思い出されます。さらに、「日本で飲むワインがヨーロッパよりも不味いのは亜硫酸塩っていう変な添加物が日本輸入分だけ混ざっているからだ」という根拠のない噂が広まったこともあります(未だに信じている人もいます。前述のワインの防腐剤はこの間違い)


アメリカの日本酒事情は漏れ伝え聞く程度ですのでよくわかりませんが、輸出用の日本酒や現地生産の日本酒に防腐剤が混ざっているというのだけは、単なる取材ミスであってほしいものです。


本当なら、TPPどころの騒ぎではなくなってしまいます。





日本酒の酸化問題について世間一般の誤解がたっぷりありますので、それも後日。