酒造りの迷信その3


お酒は寒冷な土地が美味しいというのが通説です。寒仕込みは基本中の基本。寒い時期だからこそ美味しいお酒ができる。


確かにその通り、特に大吟醸などの蔵の最上級は二月の一番寒い時期に仕込まれます。


がしかし、ここ静岡のように温暖な土地でも近頃ではいいお酒ができることに疑問をはさむことはできません。もちろん、基本は寒い時期に仕込むのですが、タンクの温度管理や蔵の温度管理はその年の気候に左右されないように設備を整えることができるようになりました。


いい例が磯自慢です。磯自慢では温暖な地でも温度がしっかり管理できるように仕込み蔵全体の温度を調整できる設備を持っています。というのも、焼津という土地は全国有数の冷凍鮪の集積地で、大型の冷凍貯蔵庫を造るノウハウをもった会社がいくつもあるのだそうです。そういう地に根ざしたノウハウを活かして蔵全体の温度管理ができる設備を作り上げるというのは、焼津ならではメリットでもあるのです。寒冷な地で酒造りをしたのが昔の地の利を活かした手法であったように、今のテクノロジーの地の利を活かした手法であるのです。


いい酒を安定的に造るための設備投資にはお金もかかるのですが、温度を管理するという分野では昔と今では技術が違うのですね。寒冷だから美味しいお酒ができて、温暖な土地ではできないというのは技術的にはすでに迷信といって間違いありません。


昨日の米といい寒造りといい、土地に根ざした酒造りは現在のようなグローバルな時代では美しくみえますが、技術革新と流通革命はお酒を土地に縛らなくなる可能性をも見いだしているのです。