味が変わった


「○○は味が変わってしまった」


料理店の味でも、日本酒の味でも一般消費者がよく口にする言葉です。


残念ながら日本人はこれを否定的に使うことがほとんどです。「味が変わってしまった」=「味が落ちた」なのですね。



私たちプロフェッショナルは気楽にこの言葉を使わないようにしています。実際「味が変わった」は勘違いであることが多いのです。


ワインをお好きな方ならよくわかるでしょう。


あり得ないかもしれませんが、単純な例として・・・・ロマネ・コンティ1978を楽しんだ翌年、同じロマネ・コンティ1981を飲んで「あの造り手は味が変わってしまった」と口にしたとしたら、訳知りのワイン通から小馬鹿にした目で見られてしまうに違いありません。


同様なことを日本酒に当てはめても同じことが言えます。


田酒純米大吟醸斗瓶取りの二年熟成したものを飲んだ一年後、同じ田酒斗瓶の発売されたばかりのものを飲んだ方が「あの蔵は味が変わってしまった」と言っても、私には何の不思議でもありません。


確かに味が違うのです。


ただし、ロマネ・コンティの場合は1978年と1981年のヴィンテージの違い、味わいの違いはワイン好きであればごく当たり前の認識であるのに、日本酒の熟成感の違いは99.9%の方には未だになじみのないことなのですね。「日本酒も寝かせるの?」と。


田酒の出荷されたばかりのお酒がまずいのではなくて、熟成を重ねたものがあまりにも素晴らしいです。しかも、出荷量が極端に少ないがゆえに、熟成させたものの偉大さを知っている方がほとんどいないということなのです。ワインではヴィンテージイヤーの違いとか何年の熟成で本来のその造り手の味わいがピークに達するかという方程式らしきものが確立しているのに比べ、日本酒には熟成への理解度が限りなく100%に近いくらい存在しないが故に、「味が変わった」などとお気楽に口に出てしまうことがあるという訳です。


もっとわかりやすくいえば、一年に一回だけ出荷される大吟醸を、出荷されたばかりの時期に飲むのと、一年後、もうすぐ次の出荷が・・・という直前まで正しい温度で熟成させて飲むのでは味わいが違うケースがとても多いのです。(味わいの変化はお酒によってすべて違いますが)もちろん、長い熟成がすべてのお酒にプラスに働くわけではありませんが。



なぁぁんてことをそれらしく言えるようになるのには、ボンクラの私にはずいぶんと時間がかかることでした。


つまり「あれぇ?これ、味が変わった?」とずっと以前に勘違いしていた時期があったのです(ただし、公に口にはしませんが)


話題にした青森の田酒は主に、純米大吟醸四割五分 純米大吟醸山廃 純米大吟醸斗瓶取りをよく使います。




で、この三本はそれぞれに熟成すべき期間が違います。


つい最近使い始めた純米大吟醸四割五分はこれまで出荷されてから一年の熟成(造られてからはほぼ二年)で使っていましたが、今年、「うーーん、まだ堅いかなぁ。。。もうちょっと」と今度は熟成を思い切ってワインセラーの14度(日本酒には少し高すぎるかもしれない温度)で半年寝かせると、「おおお!これこれ!!」という仕上がりまで達しました。つまり発売されてから一年半後に私が「これは料理に合うな」というところに熟成ができあがるのです。一般的な認識からはずいぶん気の長いお話です。


というわけで、ワイン同様、日本酒もそれぞれに熟成のピークを正しく見極めることがこれからの料理店の店主が突き詰めていかなくてはならないことだと思うのですね。答えはまだまだ先。