「火山のふもとで」松家仁之


全編通してなんと心地のいい小説なんでしょう。


読んでいる最中から、「いつ再読しようか」と考えている自分がいます。この心地よさをもう一度・・・そう思わせるのは小説のモデルとなったと思われる吉村順三氏の「小さな森の家」の存在感のように心を満たします。


思い返してみれば「小さな森の家」は私が唯一見た瞬間から心を奪われた建築です。


小説の中に現れる別荘は「森の中の小さな家」とはまた趣も用途も違う建物なのですが、物語に登場する主人公をはじめとする人々は皆吉村氏に導かれて集まったような人間ばかりなのです。その人物像がこの物語の心地よさの源泉なのでしょう。


有名建築事務所に入所した新人を主人公として、彼にまつわる人間関係と、建築事務所が取り組む大きなコンペを中心に話は流れていくのですが、コンペを勝ち取るとか、小さな恋愛を成就するとか、達成する満足感よりも、そこに生活し、綿密な仕事を積み重ねることそのもののゆったりした充実感さえあれば、サクセスストーリーなんぞ必要ないのではないかと思わせるような満ち足りた生活の流れが表現されているのは1980年代という時代故なのか、別荘という場所柄ゆえなのか?


そういえば、以前にも「読んでいる最中から再読を考えていた小説」に稲垣真弓さんの「海松」があります。あればいわば別荘小説。私、別荘小説っていうくくりが好きなんでしょうか?


火山のふもとで

火山のふもとで


海松(みる)

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小さな森の家―軽井沢山荘物語

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