値引きとモチベーション


世間はデフレの時代であります。


少しでも安く、ちょっとでもお得なモノに人々が群がり、工業製品は生き残るためにコストをぎりぎりまで下げようとしています。


時代の波は飲食業界にも容赦なく押し寄せてきています。


有名レストランの49%offのクーポンなんぞ昨今では珍しくもなく、田舎町の小さな料理屋にでさえ、様々な業者が「クーポンいかがっスかぁぁ」ってな調子で問い合わせがやってきますし、「○○の冊子に載せますのでつきましては5%offのご協力を」とか「○○会社の決済は私ン処で一切取り仕切りますので、つきましては手数料を○○%頂戴します」などなどなどなど、手を替え品を替えて「お得でなければ昨今はやっていけませんぜぇぇ」とささやきかけてきます。


もちろん、わたくしの方から協力をお願いをするサービスもあるのですが、一番避けたいと思うのが料理に対する値引きなんであります。


工業製品のコストカットは原価管理の勲章になるのでしょうが、私の店のような小さな職人が営む店の料理にとっては、値引きは職人の手仕事に対する評価を下げられているようでいたたまれません。長年のお付き合いでいただける造り手の顔が見える極上の食材を使い、朝から晩までかけて手を加えて一品ができあがります。できあがった手仕事に正当な値段以下の設定がされてしまうことは仕事のモチベーションを著しく下げます。同じ仕事をしていても投げやりな気持ちが少しでも入って美味しいモノができるはずはないのです。


ここでの5%offは先行きの大きな広告効果につながるとか、ここでお値頃感を出しておくことが次の予約に関わるなどという経済効果を考えるのが経営者であるのでしょうが、職人根性の方が勝っている私にはこの思考が全くできません。まっ、実際には値引きを求める方々は次にも同じ値引きかそれ以上を求める方々であることはほとんどであることも明白な事実ではあるのですが。。。


世間では「料理 ○○円→△△円」が当然で、「ランチのお客様には○○がもれなくつきます」が普通になっている今、ふつーーに値段を頂戴することが異質であるかのように見られているのはどう考えても変です。手仕事に対する正当な評価が当たり前である時代、それが実現できないのはお上の不始末のせいではないか・・・とさえ思うのでありますよぉ。