足す料理 引く料理


昨日個人的にtwittee上で盛り上がって興味があった話題に「足す料理 引く料理」というのがありました。


ラーメン カレーは足す料理  日本料理は引く料理


確かに今の料理の現状を見ると、ラーメン界では、鶏ガラに豚骨 昆布に鰹節 干し貝柱に干しエビ、ダブルスープ・・・興味があまりないので詳しくは知らないのですが、「あれにこれも加えました」「十五時間かけてスープをとっています」「門外不出の秘伝レシピ」などなど間違いなくシンプルに仕上げるのではなくて、足して足していくスープが人気です。


これに比べれば日本料理は、昆布に鰹節のみ、昆布をいれた水から沸騰させて鰹節を投入するまで十時間もかけるスープは使いませんし、素材の持ち味をいかして研ぎ澄ましていく料理という風にくくることができると思います。



こうした俯瞰から見た全体像を見比べると足す料理と引く料理は確かに説得力を持ちます。



ちょっと時代をさかのぼってみてみましょう。


1980年代のラーメン界って振り返ってみると、ラーメンは足す料理ではありませんでした。手元にある山本益博さんの「東京味のクランプリ200」で紹介されている二つ星以上のラーメン店は11店舗。異論は様々あるかもしれませんが、当時の東京での人気ラーメン店はこのあたりであったのだと思います。・・・というより、この山本さんのガイドブックでカリスマ性を持ったラーメン店の時代が始まったと言っても過言ではありません。


これら11件のラーメン屋さんに共通するのは豚骨はもとより複雑な何かを加えてスープを作ったという形跡はほとんどないのです。基本の鶏ガラに野菜 強いて言えば一部の店で煮干しくらい。


九州ラーメン サッポロラーメンももちろん存在していますが、前述の11件の存在を脅かすモノでは全くありませんでした。


つまり、1980年代にはラーメンは少なくとも今のように足して足して、秘伝の、秘技を駆使したモノではないのです。時代は1990年代にあきらかに変わったと思われます。「料理の鉄人」をきっかけにした職人にスポットを当てられる時代が到来し、TVを中心にしたグルメ番組の影響はかなり大きいものでした。


人ができない何か、人がやっていない何かをしていることで味わいが倍増し人気を呼ぶ、それらに注目することで番組も成立し、のせられた店側も争うように「足す料理」を加速していきました。


しかしながら、我々修行を重ねた職人から見れば、メディアを巻き込んだラーメン界のそれらの喧噪は、素人が味の仕組みを体系的に理解せずに足すことで美味しくなると思い込んだようにしか見えませんでした。


実際、力のある中華料理の職人さんに話しを聞けば、自分の店で「足して足してスープを作るラーメン」を出したいと思っている方はまずいません。「あれはラーメン屋さんのものだから。。。」とちょっと斜にかまえて遠くから拝見している以外のなにものでもありません。中華職人さんがつくる麺は全く別の処に存在するのです。



と、私自身がいつものようにラーメン界を斜にかまえてみてはいても、それから20年近く、素人の足して足してできた業界もそれはそれで体をなし、行列必須の経済効率のよい業界に成長していることを否定することはできません。ただ、それらを行列して食べたいかといえば、遠慮させていただきたいと率直に思うのです。


カレーの話、和食の話はまた後日。