ブランド力


モノを売る経済活動の多くには原価率が存在します。作られたモノをざっくり見繕って「まっ、これくらいできなら○○円だな」などというアバウトな感覚では今の商売はできません。材料費に対して何パーセントが適正な価格であるのか、業態によって様々な原価率がなければ経済的に成り立ちません。


ただ、時にいわゆるブランドモノといわれるモノの中には、「ええ!このTシャツが○万円!!」とか「ほぼ布だけのトートバッグがなんで○万円?!」などとブランドに興味のない私などには信じられない原価率を無視(は、していないはずですが)したかのようなシロモンがあることも事実です。ブランドの力によって値付けされ、そのファンにがっちり支持される商品は間違いなく存在します。


料理の世界にはそれほど激しい価格にまつわるブランド力はみられないと思うのですが、ごく希に「おお、強気の原価率だなぁ」と思う値段を見ることがあります。


少し前、ある観光地で人気の玉子焼き定食というのをTVで見ました。


行列ができるほどのその店の玉子焼き定食は、玉子焼きに赤だしご飯漬け物と軽い一品。こと料理になると言われなくても頭で原価計算をしてしまう難儀な性格の私は「観光地だからちょっと高めで800円前後?」と踏んだのです。ところがそのお値段は1200円。ちらっと写された料理の仕方を見ても特別な技とか、他店にまねができない何かがあるようでもなさそうです。そうやって再び原価率を考えると、玉子の原価が1個50円前後の高級玉子とレベルの高い高級米におごった味噌と出汁を想像してしまうのです。


まっ、さように材料にお金をかけていてもいなくても、1200円をお客様に納得させるブランド力をこの店がしっかりもっている事実というのが凄いのです。私、だし巻き玉子はそんなに下手くそではないと思っていますが(料理人なら誰でもそこそこできます)この地で1200円の玉子焼き定食で行列を作ることは100%できません。観光地というメリットも活かしつつ儲かる商売を成り立たせる能力というのが素晴らしい。




先日、月に何回かあるコラボレーションの1000円ランチを行っていた日のことです。


デザートにわらび餅をお出ししました。


召し上がっていた女性客が「この前ねぇ。京都にわらび餅を食べに出かけたのよぉ。美味しかったわぁ」とお話ししていました。どうやら京都行きはTVで美味しいと言っていたわらび餅を食べることがメインであったようです。


店の1000円ランチのデザートのわらび餅は、本蕨粉も入ったわらび餅できなこも選んだモノを使ってはいるのですが、お客様にとっては「京都の」「TVでやっていた」というブランド力が圧倒的な力をもっているわけで、田舎町の一応まじめにできたてを用意したわらび餅なんぞ比べるべくもないのでしょうね。



先日ある評論家のブログに、個人の小さな商売をしている人たちがセルフブランディングに一生懸命になっても限界があると書いていました。セルフブランディングにはそれだけお金と時間がかかると言うことなんでしょうか。それよりは日々の仕事をまじめにこなし、その誠実さがブランド化することの方が賢い・・・と。


もちろん日々まじめに仕事をすることしか能がないことは百も承知をしているのですが、ブランド力をもった店の力を見せつけられると、90年近くも商売をしながら未だにブランド力を持たない情けなさが身に染みます。