三週間目の村祐


飲む方の嗜好に合わなければ、どんな銘酒も評価をしていただけることはありません。


今日本酒の中で一番苦労している。。。というか、評価の落差が大きいのがいくつかの古酒と新潟の村祐。理解できる方の絶賛の言葉を100点としたら、「ダメ!」とおっしゃる方の評価は10点以下になってしまう難しいお酒です。しかしながら、私自身は村祐というお酒の素晴らしさを一人でも多くの方に理解していただきたくて虎視眈々と「この方にはどうか?」「あの方には無理か?」「この料理だったら相性をわかっていただけるか」「この方だったら食後酒として受け入れていただけるか」と狙いを定めているのです。


先日お越しになった二組のご夫婦カップルは、グラスをもつ姿を見ただけでワイン好きが読み取れるような方々でありました。(ワイン好きってグラスの持ち方傾け方、飲む仕草が違うんですね)


この方々なら村祐 純米大吟醸黒を食後酒でお出しすればよさをきっと理解していただけるに違いない・・・と、ご飯も終わり、デザートと共に村祐 黒を。



案の定 その日本酒の持つポテンシャルを的確な言葉で表現され、胸をなで下ろしたわけですが、封切りの村祐の別に封切り三週間目の最後のひとしずくがグラス一杯半くらいが残っていることを思い出しました。


「この方々なら抜栓後 時間を経たお酒も理解してくださるに違いない」・・・と


実は村祐 抜栓後の時間を経た方が甘味にもったり感と奥行きがでて美味しく変化するのです。村祐は封切りご三週間目に限るといいたくなるほどのお酒なのです。99%の日本酒ファンが封切り直後のお酒が一番素晴らしくて、後は劣化するだけと信じているのですが、すべての日本酒にそれが当てはまるわけではないのです。封切り後一週間目の方がこなれて美味しいお酒はたくさんありますし、村祐に限って言えば一週間よりもさらに二週間目三週間目の方が美味しいと私の舌は感じています。


最後のひとしずくと封切り直後のお酒を飲み比べた件のお客様は、一口飲んだだけで正しく私の思いをそのまま口にしてくださいました。意固地な通よりもずっとフレクシブルな舌をお持ちであったのです。


ここまで理解力をお持ちでそれを表現するボキャブラリー持った方は希かもしれませんが、長い間料理と日本酒に向き合っているとお客様に新たな視点を提供させていただける料理人の至福の瞬間があるのです。だからこの商売やめられない。