西京味噌仕立て


理解していただくのが難しい料理というのがあります。


私にとってその代表格とも言えるのが西京味噌仕立てのお椀。


西京味噌は京都独特のあまぁぁい白味噌です。鰆の味噌漬けなどはこの味噌を使って漬け込むのですが、お椀の出し汁としてのこの甘さは経験したことのない方はぎょっとするかもしれません。


最初にこのお味噌を味わったのは忘れもしない大学受験の時の小さな小さな宿の朝食でした。このお宿、当時のお得意様であったお大尽の京都別邸のような存在で、女将さんである品のいいおばあ様は、このお大尽のいい人であったらしいという受験生にはかなり艶っぽいお宿でありました。一般の方が旅行代理店を通じて予約を取るなどと言うことはありえないここで、いざ戦地へ・・・という朝出てきたのが、このあまぁぁい西京味噌仕立てのお味噌汁でした。


まだ料理修行以前も以前の私には、まさに異文化、「ぎょっ」とするお味であったことを舌がしっかり記憶しています。


さらに下って、二十代半ば、アメリカ貧乏旅行から帰ってきた成田空港の和食屋さんでのこと。店長を呼びつけ大声で怒鳴っている重役風の男性がひとり。


「こんな甘い味噌汁ありえない!すぐに作り替えろ!」と凄い剣幕です。


人の舌というのは本当に保守的にできているのです。ましてや毎日食べ続けている味噌汁の味が大きく違っていることを許せない人は決定的に許せないんでしょうねぇ。大阪で曲がりなりにも修行を経た私にはこの理不尽な怒鳴り散らしを板前の側に立って苦々しく聞いていました。


というわけで、あまぁぁい味噌仕立ての汁というのは、食べ慣れない方には高いハードルなのかもしれないという思いが若い頃からトラウマのように心の奥に根付いてしまっていた私は、ずっと西京味噌仕立てを敬遠してきました。ところが、この秋の初めにある味噌屋さんの素晴らしい西京味噌に出会ってしまいました。


「この味噌なら西京味噌仕立ても納得できる味になるかも・・・」


と、まずはスタッフに味わってもらうと意外に高評価。


んで、今日初めてお客様にもお出ししてみました。 


ハラダ農園さんの蕪と京菊菜 車エビの西京味噌仕立て。お客様が「ぎょっ」とされないようにとスタッフが「京都の甘いお味噌仕立てです」と付け加えてお出しするとこれもなかなかの高評価。


もしかしたらハードルを越えられるかもしれない。。。。