手作り


巷には「手作り」を標榜する商品が数多あります。


私たち職人は自分の仕事に「手作り」を付け加えることには大きな抵抗感があります。つまり手で作ることは当たり前なのであって、自分の仕事に手作りという言葉を付け加えると素人仕事のように思えてしまうのです。


たとえば、普通であれば既製品を使うのが当たり前の業態であれば、手作りはそれなりの説得力があるのかもしれません。喫茶店に行って「手作りケーキ」とか「手作りアイスクリーム」と書かれてあれば、「ああ、ほかの店ではケーキってどこかで買ってきたもの、既製の冷凍商品を購入したものなのね」と逆に勘繰ったりしてしまいます。


ところが今や料理業界も大型外食産業花盛り、チェーン展開するような店で「手作り」と書いてあれば、それはそれなりの説得力がある時代になってしまったのかもしれません。悲しい事実ではありますが。



さて、話題はお節料理であります。


料理が外食産業化している昨今では、お節料理などはまさにその典型です。この業界では夏も過ぎ秋を感じるような季節になると、業務用お節料理の分厚い冊子を見かけます。厚さは電話帳くらいある事務用品のカタログくらい。


中にはありとあらゆるお節商品がずらりと並んでいるのです。このカタログさえあれば、料理人は火や調味料を一切使わずに包丁で切るだけで二段重のお節料理を盛りつけることができます。電話かfaxで注文しさえすればいいのです。


産業化している大手の料理店運営会社では何冊あるかもわからないこのカタログからたくさんの品物を使ってお節料理を作っています。料理に詳しい友人が「デパートのお節料理売り場でどの品物がカタログ商品かを当てるクイズができる」と笑うほど、大量に販売される商品は産業化しているのが実態です。それが冗談になりえないほど、有名店でさえ「あれ?これは既製品?」というものを使うのが当たり前になっています。


利益を生み出すことが第一命題で、年末の一番忙しい時期にお節料理まで作らなくてはならない現実がそうさせるのでしょうし、既製品だから駄目・・・なわけではけっしてありません。既製品の方が優れている場合もあることも事実です。



とはいっても、戦争前、祖父の時代からずっと職人仕事として受け継がれ、変化を積み重ねてきた私ン処のお節料理は、相変わらず愚直に職人仕事のままです。普通のお節料理の仕事を続けてきたら、それがある意味文化遺産(別の意味では手垢のついた骨董品かも)のようになってしまっているのかも。。。が、この仕事しかできな私は相変わらず今年もこつこつとお節のための段取りを組み始めるのです。