牛肉


肉を使う料理は日本料理ではまだまだ成熟期を向かえていません。わからないことだらけです。


ほんの少し前、高級な肉といえば、サシがたっぷり入ったお箸でも切れるような牛肉が主流でした。店でも20年くらい前まではそんな肉しか使っていませんでした。やっとジビエに興味が出てきて、流通ルートもすこしづつできはじめ、霜降り牛肉だけで勝負しなくてもいい時代になったのです。


15年くらい前にはサシのない赤身に旨みのある牛肉が手に入り始め、短角牛 シャロレー アンガス ジャージー それらを掛け合わせた北里八雲牛 「牛肉は赤身に限る」と盛んに使ってきました。


地元の肉屋さんと付き合うしかない時代には、牛肉はどれだけサシが入っているかだけでランクを決める程度の選択肢しかなかったのが、地元に限らない優秀な仕入業者さんとお付き合いができはじめて、産地を特定したり、生産者を特定することが可能になってきたのです。それだってほんの10年ちょっと前のことです。普段たくさんは肉を使うことがなく、知識も技術もない日本料理なんてまだまだそんなものなのです。



「牛肉は赤身に限る」「生産者を特定してこそいい素材が」と信じていた私の考え方を改めさせてくれたのが今年に入ってから食べた四谷「北島亭」さんの牛ランプの美味しさでした。赤身ではなくてA5ランクのいわゆる霜降り牛、たぶん生産者を・・・というよりは納入業者を信頼しての仕入れ、リブロースでもサーロインでもなくてランプ、そしてフライパンやオーブンではなくてサラマンダーの低温での焼き加減。


ああ、こういう美味しさもあるのか・・・と、夏からは優秀な岩手の納入業者を経由した東北を中心に集められたA5のランプを使って試行錯誤を初めて見ました。霜降り特有の脂のしつこさがなく、かみ応えと旨みもある牛肉は、サシとは違う柔らかさと歯ごたえ、旨みが同居した、私には新しい素材でした。


炭火の遠火で焼いては休ませ、焼いては休ませを繰り返して塊を一時間近くかけて焼き上げ、全体をロゼに仕上げます。


んで、瓢箪から駒のように思いついた、豊岡村の海老芋のピュレをソースのように使う方法を二三日前から試しています。昨日はチーズ屋さんから送られてきたフルムダンベールをピュレにちょっと加えたりして。




素材も調理方法もソースも、やっと牛肉はスタートラインに立ったところの料理です。もっと美味しくしてやる。