維持することの困難さ


「先日”○○さん”にいってきたんですよ。残念ですががっかりしました」


と、おっしゃったのは来店してくださった力のある中華料理シェフ。○○さんはミュシュランの星もとっている名店の誉れ高い店です。実は同じことを別の職人さんも。


店を選ぶ能力も、味わう能力も高く、あまり悪口を言わない方の言葉として重みがあります。


店舗数を増やされたことで本店がおろそかになってしまったのか?たまたまその日の段取りがちぐはぐであったのか?


ご主人はとても技術もあり見識も高い尊敬する料理人で、私なんぞ足下にも及ばない雲の上の存在です。ご自身が常に調理場に立つという店ではないことの難しさです。


名店といわれる店のすべてでご主人が調理場で先頭に立って仕事をしているわけではありません。中には仕事のすべてを弟子にやらせて管理することで店を維持している方もいますし、店舗展開をしてもレベルが落ちない希有な方もいます。とはいえ、現在のように料理人に脚光があびせられ、料理人のキャラクターが店の顔になる時代では、料理人本人が店にいることは案外外せないほど大切なことなのかもしれません。


多くの名店ではご主人が包丁を握り、鍋の前に立たなくても、調理場で目を光らせているかどうかだけで店の質は大きく変わってしまうようです。


今、料理屋は料理人個人のキャラクターの時代です。料理だけでなく、自然とその人柄が店全体に現れるのです。また現れるような店に名店が多いのかもしれません。


先日お得意様が東京のとある有名店に伺ってきたお話をしてくださいました。「やっぱり料理店の善し悪しってご主人の人柄次第なんだよねぇ」


美味しいものを食べ尽くし飲み尽くしていらっしゃる方のこの一言が重く感じられます。