1973年のマイルス


NHKで放送されたマイルス・デイビスのライブ音源は、1973年のライブの模様を伝えるもの。長い間行方不明になっていたテープが発見されたとかで、ジャズファンの間では大きな話題になっていました。


あのライブ、厚生年金ホールの現場で見ていました。


今、音源を聴いたマイルスファンの多くが大絶賛の嵐であるのと真反対に、1973年の新宿、私はあのマイルスのステージを見て「なんだよぉ、マイルス、ちっともよくないじゃん」と冷めた目でというより、呆然としていました。


なにしろ、アナログ頭の私は、それより6年くらい前(中学時代)からマイルスをリアルタイムでも遡っても聞き続けていて、1969年の「ビッチェス・ブリュー」で「マイルス=神」状態の頂点に達していた時期でした。新しく出るアルバム出るアルバム、すべてが刺激的でファンが追いつけないほどの進化を目の前で見続けていたのです。「ジャック・ジョンソン」がちょっとくらい面白くなくても、「オン・ザ・コーナー」に「あれ?」と思っても、すでに「神」であるマイルスが少し躓いたくらいにしか思っていなかった時代でした。


そこであのステージです。


レイジー・ルーカスのカッティングと、ムトゥーメの連打、デイブ・リーブマンのコルトレーンを彷彿とさせるアグレッシブなアドリブには惹かれつつも、サウンドは(PAやアンプのせいかもしれないけれど)薄いし、ピート・コージーはわけわかんないし(それまでにフリーだって結構聴いているんだけど)、マイケル・ヘンダーソンとアル・フォスターはそれ以前のタイコ〜ベースの足下にも及ばないし(浅薄でアホなのでそう聞こえてしまっていたのです)主役のマイルスはちっともメロディーを吹かなし・・・・と、「神様マイルスはこんなはずじゃぁない」とガックシしていたのです。もしかしたらボンクラな私はビッチェス・ブリューがステージで再現されるかもしれないと思っていたのかもしれません。今時代を遡って考えれば、そんなことあり得ないとはわかっていても、4年くらい音楽が変わらないミュージシャンなんて掃いて捨てるほど・・・というか4年どころか一生変わらないミュージシャンがほとんどなのに、マイルスの進化が凄すぎたのです。


1973年の録音が見つかったという情報を聞き、もしかしたらあの時、10代の小僧だった私の耳がバカ耳で、本当は感動の嵐であったのかもしれない・・・とNHKの番組を見てみると。。。。


やっぱり、38年前の印象はそのままでした。


面白くない。


それから2年後の1975年 「アガルダ」「パンゲア」という名盤を残しているのですから(実際私も二枚のアルバムは好きです) 改めて、その二枚を聴いてみたのです。メンバーもサックス以外変わらず、やっている音楽も劇的には変化していないのに。。。1973年 1975年の違いはなんだったんだろう????


まっ、音楽 特にジャズってそんなもんかもしれません。


マイルスだからってあがめすぎてはいけないのです。1964年の来日だってサム・リバースのアバンギャルドに戸惑ったファンは多かったはず。


とはいえ、マイルスファン・・・というより、マイルス命の私には未だ冷静な判断ができないままでいます。