台湾茶


「こだわり」という言葉をあまり使いたくないのは、その意味合いにどこかに突出して傾倒しているという印象がある故です。


悪く言ってしまうと、どうでもいいことに拘泥するというニュアンスもあります。本来はそういう使われ方をしてきた言葉でした。


「こだわりの料理店」というと、「私ン処は水にはこだわっています」「魚にはこだわっています」などなど、一点に大きな売りがあることがしばしばです。ならば、「ほかはどうなの?」・・・とひねくれ者の私は裏をすぐに読んでしまいます。


お料理は美味しいんだけど、お酒のラインアップがねぇ。
サービスは素晴らしいんだけど、器が。。。
料理もお酒も素晴らしいんだけど、掃除が行き届いていないんだよねぇ。


などなど、こだわりはそのほかの落ち度につながってしまうこともあるのです。



できれば、自分の店はこだわりがなくても全体の統一感のある店でありたい。いつもそんな風に思いながら仕事をしています。


料理も器も日本酒もどこか突出することなく身の丈サイズで平均にいいものをお届けしたい。


そういうスタンスで選んだ中には、作り手の顔が見える野菜の数々、信頼する魚屋さん漁師さんからとどく魚、生産者のポリシーを納得していただく肉類ジビエ、尊敬に値する日本酒の造り手たちのお酒、ワイン、これ以外には今のところ考えられないガージェリービール。


それらは一気に集められるわけもなく、少しづつ人間関係の信頼が生まれる中でいただくものばかりです。


そんな中に烏龍茶もあります。


烏龍茶が日本料理の中でいつ頃から受け入れら始めたのかすでに記憶にありませんが、長い間、私ン処でもペットボトルに入った市販の烏龍茶を使ってきました。


「やっぱりこれはまずい。ちゃんと美味しい台湾茶を召し上がっていただきたい」と探しているうちにお付き合いができたのがアイシス茶楽館さんです。


基本は茶葉でいれる台湾茶


アイシスさんの扱う台湾茶は、さらに生産者が個人茶農のものが中心で、私がいただいているお茶は茶師も特定されています。


台湾茶のおいしさに目覚め始めたのが十五年ほど前、やっとここまでたどり着いたという感があります。


昨年のリニューアル工事の間に訪ねた台湾で、いくつかの有名茶館やお茶屋さんにでかけたのですが、そのとき気づいたのが「なぁんだ、普段アイシスさんでいただいている台湾茶は全然負けてない・・・というかもっと優れているかも」という事実でした。


造り手が明確で、それを選ぶ人の目が確かであることが一番大切なのです。大切なものを見つけたら大事に長いお付き合いをすること。そうやって店の統一感は作られていくのだと思います。


選ぶ人の目といえば、アイシス茶楽館のご主人瀬津さんは、日本で三本の指に入る古美術商「瀬津雅陶堂」のお姉様。あの「掌の美」を記した瀬津巌さんの直系なのです。日本の美意識を背負ってきた瀬津家に生まれ育まれた、美しいもの美味しいものを見る目は「血」として宿っています。その「血」への信頼感は料理屋風情にとっては絶大です。