三代目はやっぱりボンボン?


「えっ!親方って自分で包丁持つんですか?」
とか
「普段はお部屋の花を生けたり、掛け軸を替えるような仕事だけしてればいいんでしょ」
とか
「跡継ぎって伝統を守ってればいいんでしょ」
とか
凄い場合では
「三代目はいいよねぇ。お得意様もついてるし、家建物も財産もあるし、器もそろってるし、銀行の信頼もあるし、のほほんとしてても店をやってけるもんねぇ」
などといわれたりすることがあります。


そんなとき、大概は
「はい、ありがたいことに先代先々代が築いてくれましたので、ぼんやり仕事をしながらここまできました」
なぁぁんてお答えしています。


まっ、そんな風に思っていただいても不都合はないのですが、悪意やねたみをもって、「跡取りのボンボンだからこんな仕事をのんびりしてるんだぁ」と思われるのはちょっと心外です。


先日もあるお得意様がお帰りの時に調理場をちらっとのぞいて「あっ、親方ほんとに仕事してるんだねぇ」・・・と。


何度も言っていますが、朝の7:30の仕入れから一時間半の休憩時間を除いては夜の12:00までほとんどの時間は調理場で仕事をしています。いわゆる首から下の、肉体労働に明け暮れています。残念ながら今の世の中それくらいでやっと食べていけるのです(多くの料理人が実感しているように)


父親から引き継いだときにはありがたいことにそれなりにお得意様はついていましたが、今の私の形に移行する過程でお客様の90%は新しくできあがったお得意様です。20年の時間を使っているのですから当たり前なのですが。ご自分の身の回りに30年以上通い続けている店が何軒ありますか?


建物は16年前に私が建て、土地も父と私で手に入れたもので、すでに手元にあったものではありません。


サイトでは受け継いだ器をご紹介していますが、全体の95%の器は私が探し、私が手に入れたものです。父や祖父の時とは嗜好もレベルも違います。


掛け軸や絵の類いも新築の時点で100万円以上をかけて表装をし直し、版画やそのほかのお飾りも私が手に入れたものです。必死のやりくりです。


銀行の信頼は後を継いだときの実績はあったとはいえ、この厳しい時代に過去の実績を何年前まで遡ってみれくれるのか、銀行で苦労している経営者の方であれば明解なことです。バブル以降の厳しい時代は小さな店が生き延びただけで、個人的には尊敬してしまいます。


伝統を受け継ぐと、一般の方は簡単に思うでしょうが、周りを見渡して伝統を受け継いだ料理だけで長年続いている店がどれだけあるでしょう。少なくとも日本料理の世界で伝統といってイメージできるのは営業している時間の長さだけです。料理は常に進化続けるのが当たり前で、それを怠った店がどれだけなくなっているか。この15年で店を閉めた老舗の多さを考えると明日は我が身と身を引き締めます。



なんてことを考えたのは、悪意に満ちたボンボン批判を耳にしたときに、自分を振り返ってみて、ボンボン批判が妄想のなせる技であったことを確認するためでした。


小さな料理店が身を粉にして働いても続けられなくなるような今の厳しい世の中は誰のせいだろう?とちょっと悔しい思いもありつつ。


父が私の同じ年の頃、もうちょっとのんびり仕事をしていたよなぁぁ。。。