情報の共有化


店のサービスの面で大切にしているのはお客様の情報の共有化です。


朝礼夕礼や会議を開くわけではないのですが、一組一組、一人一人のお客様のちょっとした情報もできるだけ調理場の中で話し、私とサービススタッフの全員が共有できるようにしたいと思っています。


たとえば、前日の夜、翌日の予約のお客様がどういう筋の方で、お得意さまであれば、年齢層やお好み、お仕事、お酒の嗜好、前回ご来店のときの献立などなどなど、わかることはすべて伝えます。また私が忘れていたりお客様にお座敷でお会いしていなかったりした場合の細かな情報も伝えてもらいます。


それらは当日、ご来店の前にも話すのですが、ご来店後はさらに細かな情報が調理場に飛び交います。


今日のご来店がどなたとご一緒か。男女、年齢層、カップルであればご夫婦なのか違うのか。接待か、接待であるなら上座のどの方までが上客であるのか。一見の方であれば、想像できる職種があるのか。


最初の飲み物のご注文はどんなふうであるのか。飲み方のピッチはどんなものか。料理の進み具合はどんな具合か。


前菜の後、お椀のタイミングはどのへんか。お酒はいつお奨めをしていいのか。お料理の進み具合の遅い方はいらっしゃらないか。


お話は弾んでいらっしゃるか。仕事の難しい話をしていらしゃるのか。カップルの雰囲気はどうであるのか。残されているものがないか。


日本酒のピッチはどうか。お席のうちお酒が強そうな方はどちらで、控えめな方はどの辺の方か。次のお酒のタイミングはどの料理あたりか。今お出ししたお酒の反応はどうか。


料理に集中してくださっているか、それともお話に夢中でいらっしゃるのか。器に興味のベクトルが向いていらっしゃる方がいれば、どのお席の方か。食材に興味のありそうな方がいらっしゃらないか。料理法に興味のありそうな方いらっしゃらないか。


どんな情報であってもお客様に関するものであれば、お席で得られるものは一人で納得しないで、全員で認識し、「○○の間のお客様の次のタイミングはこうしましょう」「あちらのお席では料理の説明は多くはしないほうがいいでしょう」「○○のお席では使っている器の作者のことを確認してからお出ししましょう」などという細かな修正を加えていくようにします。


しかしそれらはあくまで押し付けがましくないお客様ごとに差別化したサービスができるようにするためで、多くの情報はお客様が気づかないうちに心地いい空間を作るためのものなのです。


もし、ご来店された方が、「気がついてみたらなにか気持ちいい時間をすごせた」と思ってくださったとしたら、この情報の共有化が滞りなくうまくできたということです。マニュアルの細密化ではたどり着けないきめ細かいサービスが実現できればいいのですが、ある意味到達点や100点満点がない難しい仕事です。


幸いなことにリニューアル後のこの一年、サービススタッフに恵まれて、私の足りない点をスタッフがずいぶんと補ってくれています。このまま精度を高めていけたらいいな。