名演その36〜あっという間に虜


最初は名演だと気づかずに、いつのまにか心に残っている名演があるということをの前回の「名演その35」で取り上げました。


性懲りもなく続けているこの名演シリーズは基本的に過去10年以上前の作品を紹介しています。ファンの間ではすでに名声が固定化しつつある作品群ばかりです。


ただ、ごくごくまれにCDケースの封を切ってプレーヤーから音が流れた瞬間に「あっ、出会っちゃった!」「これは間違いなく歴史に残る」と確信するアルバム存在します。


たとえば、マイルス・デイビス「イン・ナ・サイレントウェイ」続いてリリースされた「ビッチェズ・ブリュー」 ジャコ・パストリアス「ワード・オブ・マウス」


最初から体がしびれるように硬直し、神経が耳と脳内にだけに集中して音の渦の中に巻き込まれるのです。


しかしながらそういう体験はそう多くはありません。私の場合数年に一回くらい。



今回取り上げるブラッド・メルドー「ライブ・イン・マルシアック」は久しぶりに一瞬でその世界に入り込み、ドキドキするようなしびれを感じたアルバムでありました。メルドーの最新作です。


メルドーはいまさら取り上げるまでもなく、現在ジャズ・ピアニストの最高峰に君臨するアーティストです。出てくるアルバムすべてが創造性にあふれ、それを表現する超絶技巧も含め新作に目が離せない数少ないプレーヤーなのですが、今回はそれをさらに越えてしまった完成度の高いライブ音源です。


ジャズは基本的にアドリブを中心にして音楽が進行します。素人が考えると、演奏するその場で次々と頭の中に音が現れそれを表現するように考えがちですが、実際には一曲を仕上げるためにはその曲に対して様々なアプローチを試み、様々なフレーズを考えて練習し、構成して出来上がってこそいい演奏ができるのです。ですから、一曲を何度もステージかけてその都度試行錯誤を繰り返すわけですが、メルドーの今回のアルバムなど、これを一回の思いつきで演奏できたらすでにモーツアルトを超えてるジャンと思うほど、緻密ですきのない完璧な演奏が繰り広げられてます。このアルバムが出来上がるまでのメルドーの修練というのはどれほどのものか。


すべての音楽ファンに・・・といいたいところですが、より限定してピアノ好きの方、クリエイティブな創作にしびれる方には圧倒的にお奨め。




Live in Marciac

Live in Marciac