あこがれの北島亭


職人としてその仕事にあこがれ続けてきた北島亭さんに週末やっと伺うことができました。



記憶だけで思い返す献立は


冷たいメロンのスープ ミントの香り
蝦夷ばい貝マリネ
豚とフォアグラ パセリのテリーヌ(連れ合いには海胆のスープジュレ カリフラワーのピュレ)
甘鯛のソテー
国産牛ランプロースト
完熟マンゴー
焼き菓子をたくさん


お昼なのでシャンパーニュのみ 「ジェローム・プレヴォー」


一品一品の主張にメリハリがあって、どれも一口食べては「ウーーン」と唸り、「素晴らしい!」とつぶやき、「はぁぁ」とため息をつきつつ皿が進みます。


すべての素材は、これ以下でもこれ以上でも北島さんの職人としての自己表現には適さなくて、この素材に北島さんの技術を加えることで一皿の完成形が皿の上に現せるのです。たとえば、この一皿をもうちょっとお手ごろな素材でまねた料理人がいても、一皿の迫力ははるかに見劣りし、どこにでもあるフレンチレストランになってしまうはずです。それくらい北島さんの素材を自分のものにする技術は素晴らしい。


圧巻は牛ランプ肉のロースト。ある料理専門誌でサラマンドだけを使ったこのローストの北島技を読んだことがあったのですが、和食の職人にはよく読まないと理解できないような他ではみない火の通し方でした。外側のかりっと仕上げた部分は極うすく、内側は見事に全体に均一のロゼ。しっとり柔らかくランプの持ち味を最大限に生かす手法であることは一口食べれば深く納得せざると得ません。


料理の値段を考えると、さらに北島さんの主張は明白です。この値段でこの素材。しかも四谷という土地柄を考えれば、店の内装も外装も、値段なりに求められるであろうはずのサービスのエレガントさも、器の美しさも、とりあえずグランメゾンのバランスを考えず、すべてのコストを料理とワインに傾けようとしているように思えます。料理とワインのコストパフォーマンスだけに特化して、そのほかはそれなりでいい・・・なんとも潔い職人的自己主張ではありませんか。「俺の料理を食べてくれ!」それ以外はおっしゃっていないのです。職人として「あっぱれ!」としかいいようがありません。グランメゾンのバランスがお好みの方はそういう店に行くべきですし、料理店の楽しみ方の幅を広くもてるかどうかの試金石のお店ともいえます。


ある方は豪快を大雑把といい、ある方は繊細をひ弱といい、ある方は迫力を押し付けがましいといいます。食べ手としての私は、あらゆる職人の、研鑽を積んだ自己主張を懐深く理解し、楽しめる人間ありたいと思っています。北島さん、はるか遠くを突っ走っている憧れの料理人であることをあらためて認識しました。