ありえない・・・くもないかも。


ブラック・スワン」を評して「こんなのありえない!」とうそぶいた私ですが、一般的に見れば「ありえない!」はずの映画「オーケストラ」を録画で観て「ありえない・・・くもないかも」と思ってしまいました。


「オーケストラ」のストーリーは、旧ソ連ユダヤ演奏家を擁護したために劇場の清掃人にされてしまっい30年の元名指揮者が、たまたまボリショイ楽団に入ったパリの名門劇場の公演依頼FAXを見て、それを盗み、全員が身を落としてしまっている昔の仲間を集めて30年演奏してない即製楽団を組んでパリに乗り込みます。しかし、オーケストラのメンバーのほとんどは観光気分や商売に熱心でリハーサルにさえ姿を現さずに、気鋭の女性バイオリニスト(元名指揮者と深い因縁があります)を迎えた本番は果たして。。。。


いくらも元プロといたって30年ぶりの演奏、しかもリハーサルなしなんてありえない。いくら何度も演奏したチャイコといったって、ソリストとの打ち合わせなしでコンサートを開くなんてありえない。一流といわれる音楽家の日々の鍛錬はそりゃぁすごいもんであって、片手間でレベルを保てるなんてありえない。


コメディーだからゆるせる範疇ぎりぎりでストーリーは進むのですが、最後のバイオリンコンチェルトの演奏とカットインの映像ですべてをチャラにして感動に浸ってしまうのです。とはいえ、コンチェルト前半のがっかり間があまりにも大きすぎて、これを回復するなんてありえない。。。と心のどこかで最後まで引きずっていたりもするわけですが。


私の経験してきたジャズの世界ではリハなしのぶっつけ本番というのもありえました。即興演奏ゆえの荒業ですが、極まれにそれが奇跡を呼ぶことも知っています。


地元にもどり誘われて演奏活動をしていた頃、時間がなくてあまり練習時間がないフルバンドの小さな小さなコンサートがありました。飛び込みで加わったもっさりした風貌のトランペッターがいました。


新しいメンバーが入ると、果たしてかれの実力はいかがなものか・・・と全員が興味深々であるのですが、プロでもないメンバーが本番直前に加わってもあまり耳を傾けるほどのゆとりもないわけです。


曲目はエリントンの”Take The A Train”


トランペットソロで指名されてフロントで吹き始めた彼のソロは、クラーク・テリーばりのメロディアスでスウィンギーなご機嫌な演奏でした。


「おお!」いっしょに演奏している我々までがご機嫌にノリノリになってフルバンド全体がうねるようなグルーブ感に包まれたのです(と演奏している本人たちは思い込みました)


リハーサルなしだって一人の演奏家の技量で奇跡の瞬間が訪れるのです。そんな一時を実感で知っている私には「オーケストラ」あるかも・・・と思ってしまいました。