名演その35〜いつの間にか心に残っている名盤


山下達郎さんのNo.1ヒット曲「クリスマス・イブ」を、アルバム”Merodies”が発売されたときに、その収録曲の一曲として聴いて、歴史的なヒットとなると想像したファンは少ないと思います。私にっとって「クリスマス・イブ」はたくさんの秀作の中のいつもの一曲に過ぎませんでした。CMの影響が絶大とはいえ、そのJRのCMを見たときも「上手いこと選んだなぁ」くらいにしか思わなかったのです。名曲は繰り返されることで人々の心の中に住みつきました。


今日紹介するチャーリー・ヘイデン〜パット・メセニー”Beyond The Missouri Sky ”もいつの間にか私の心に名演として住みついたアルバムです。


ベーシスト チャーリー・ヘイデン ギタリスト パット・メセニーは二人とも新しくリリースされるアルバムはすべて聞き逃したくない、私にとって大切なミュジーシャンです。当然のようにこの”Beyond The Missouri Sky ”も発売を待ち焦がれるように購入し、聴いて見た最初の印象は、「ずいぶんと口数の少ない演奏だな。けれどその分メロディーラインが単純で美しくて心に響く」というものでした。二人のこの演奏は、遡ること十年少々前の「リジョイシング」に片鱗はみえていました。しかしながら「リジョイシング」はパットが傾倒し、C.ヘイデンが歴史的な競演をしているオーネット・コールマンへの敬愛を軸にしているアルバムでしたから、もっとアバンギャルドで難解さを併せ持っていました。ただ、最初の一曲”Lonely woman”を聴けば、後に”Beyond The Missouri Sky ”のような演奏が可能であることもファンには理解しやすいことでした。そんな風に40年近く彼らの演奏を聴いていたファンにとっては”Beyond The Missouri Sky ”は、いつも期待していることを裏切らないハイレベルのアルバムのひとつに過ぎなかったのです。「チャーリーとパットが組み合わさればこれくらい当たり前」なのです。


印象に変化があったのは友人へのお奨めがきっかけでした。


友人の「最近のお奨めは?」のmailでの問いかけに答えた数枚のお奨めCDの中に、このアルバムも含めておくと帰ってきた返事が「これまで聴いたジャズの演奏の中でベストかも」という一言でした。そりゃ、名演には違いないけどベストって言うほどでは。。。と心の片隅で思いつつも、私自身がCDプレーヤーに乗せる回数も増えてきました。すると、最初に感じた単純で口数少なくても美しいメロディーラインと、耽美で郷愁を感じるヴォイシングがより心に響いてくるようになりました。


ジャズの世界で世に語り継がれる名演奏の数々は、即興演奏であっても、その美しさゆえに人々が口ずさめるようなアドリブばかりです。


たとえば、クリフォード・ブラウンヘレン・メリルと競演した「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」でのソロ。たとえば、マイルス・デイビス「カインド・オブ・ブルー」「ソ・ワット」でのソロ。たとえばチャールス・ロイド「フォレスト・フラワー」でのキース・ジャレットのソロ。たとえばソニー・ロリンズ「サックスフォン・コロサス」「マック・ザ・ナイフ」でのロリンズのソロ。挙げればきりがないほど歌えてしまう完成度の高いソロは長い年月語り継がれます。


”Beyond The Missouri Sky ” ”Our Spanish Love Song”でのパット・メセニーの美しいソロはどうでしょう。私は間違いなくすべて口ずさめます。シンプルでてらいのない ただただ美しいメロディーと、重厚にささえるC.ヘイデンの重低音。


そうやって気づいて見ると”Beyond The Missouri Sky ” が歴史に残る名演奏であることが実感できるようになってきたのです。


私は素晴らしさを理解できるのに時間がかかってしまいましたが、アルバムは音楽を愛するすべての方々に間違いなくお奨め。