お節料理の難しさ


年があけてから二回も続けて年末に仕事をするお節料理のお話をすることは初めてです。


今、グルポンを利用したお節料理の品質や、サイトを利用した宅配お節の配送遅れなど、これまでほとんど世間では話題になってこなかった問題が一気に噴出しているようです。


お節料理の中身にがっかりしたとか、食べるものがないなどというお話は、お節料理を料理店で買う習慣が根付いてきた四半世紀前から私の耳には届いていました。お節料理を長い間作っている当事者ですからその手の話題にも敏感であるわけですが。



料理店の視点からものをいわせていただければ、お節料理を採算ベースに乗せて、しかも誰が食べても満足のいく内容で作りあげるというのはとても難しい仕事です。


まず第一に、「料理は出来たてが美味しい」が当たり前である昨今に、最低でも24時間以上、ものによっては3-4日以上経過した料理を食べていただてお足を頂戴しなければなりません。仕出し料理を専門にする店ならともかく、喰いきりを当たり前にしている一般料理店しか経験のない料理人が、いきなり翌日食べる料理を美味しく作れというのは、一品だけならともかく数十品揃えるとなると困難を極めます。


第二に、お節料理はほとんどすべての品物が一年に一回しか作らないものばかりで構成されています。「私は三十数年間お節料理を作ってきた」と立派なことをいっていても、黒豆だって二色玉子だって田作りだって三十数回しか作っていないのです。定番の天麩羅を一日中365日揚げることを仕事としている職人さんに比べたら、経験値は極めて少ないのです。しかも、採算ベースにのせるお節料理であれば数の単位も日ごろ作る料理の数十倍以上になります。20匹の車海老を旨煮にするのと600匹の車海老を旨煮にするのではほとんど違う仕事となるのです。しかも一回の単位が大きい分失敗が許されません。一回失敗すれば次の仕入れが困難であったり、原価的な大打撃が待っています。丹波黒豆の極上がちょっとの失敗で十数万円のロスがでるのです。


第三に、数の予測と仕込みの計算が難しいこと。今回話題になっている500個のお節料理などという単位は、きっと予測の数を上回ったことによる仕込み量の計算間違いも大きなトラブルの要因だと思います。20個限定とか50個限定程度でそれ以上はやらない・・・と決め込めば、その量だけの仕込みでいいのですが、たとえば12月25日を締め切りにしても、予想した予約数と実際の予約数がピッタリ一致することなどありえません。しかも25日を過ぎるとお節料理を限定して生産されるような素材は追加が聞かないことが多いのです。100個を予想して仕込んでいたものに、営業担当から「150個注文が入ったのでよろしく」といわれれば現場ではあわてるだけでなく、100個分に何かをプラスアルファして無理やりにも150個分をやりくりする・・・「見本の写真とちがうじゃぁないか」というクレームは当然のようにきます。かといって、多め仕込んでしまっても、お節料理の仕事は他に流用できませんから、多い分だけがロスとなって採算を圧迫します。


私の場合30数年の経験といいましたが、実際には祖父、父が残してくれたノウハウは戦前から続いて残されていました。ですから店自体の経験値というのはとてもたくさんあって恵まれた環境にあるはずなのに、毎年毎年必ず超えなければいけない高いハードルがあります。「今年からお節料理始めます」というお店の広告やお話を聞くと、調理長の悩める姿、経営者の「こんなはずじゃぁないのに」の顔がみえるようです。それほど、作る側からお節料理を採算ベースで軌道に乗せることは難しいのです(私がひたすらボンクラなゆえだけなのかもしれませんが)



そういう様々の問題をクリアするために有効なのが「既製品」を使うこと・・・なのです。


一般の方々にはわかりにくいかもしれませんが、世間に出回っている多くのお節料理は既製品で埋め尽くされています。かまぼこや伊達巻といった専門分野のほうが美味しいものだけでなく、田作り、黒豆、キントンはいうにおよばず、鰻の八幡巻や煮物の数々、昆布巻き、数の子(味のついたもの)などなど、職人の仕事は料理を作ることではなくて、仕入れ数を間違いなく計算し、パックから品物を出して切って盛るだけ・・・ってことになるのです。しかし、ロスは少なく、味付けの失敗もなく、人件費は少なく、労働時間は短縮でき、よりたくさんの注文を受けることが出来ます。



愚直に仕事をするには難しく、失敗のない方法(既製品利用)では美味しくない。。。。


「お節料理に食べるものがない」「こんなはずでは」というのには、そんな理由(わけ)があるのですね。