88年ぶりのひとつ舞台


NHKBSで見た「若き宗家と至高の三味線〜清元二派88年ぶりの共演〜」が素晴らしく面白いドキュメンタリーでした。


清元といってもその方面にはまったく知識がありませんので、浄瑠璃 清元 義太夫 常磐津 長唄・・・どれがどれやらさえまったくわからないという体たらくで、番組が進む中で清元がどこで唄われるのかもやっと理解したという程度の無知ぶりです。


番組の中で知ったのは清元は88年前に宗家である高輪派と梅派に分裂したということ、両派は長いこと袂を分かったままで、現宗家の延寿太夫と梅派の総領梅吉の努力によって、長い間の確執を乗り越えて一つの舞台に立ったのだそうです。


しかしながらそれは、二人が仲良く舞台に立つという単純な図式ではなく、一度は役者の道を志した現宗家が先代の急逝によって若くして宗家を継いだこと、宗家の下に人間国宝が二人もいるという芸の至高と宗家の家柄との微妙な関係、宗家を告ぐべき若き後継者の癌発病、人間国宝の高輪派重鎮と年齢はそれよりも少し上の梅派梅吉の芸の違いとそれ以上に腫れ物に触るような繊細な上下関係、それらが8ヶ月の両派の稽古を通じて揺れ動く姿は小説を読むよりもドキドキするような物語がありました。


そして、それらを乗り越えて最後のクライマックスに到達するためには宗家と梅吉の「このままでは清元のためにならない」というゆるぎない強い意志と、画面の端々に現れるずぶの素人でも釘付けになるような唄と三味線の丁々発止のやりとりが存在していました。頂点にある芸術家たちの芸に人間関係がからんで、それらを吹き飛ばすほどの舞台が出現する感動。芸術の高みの凄さを改めて実感するドキュメンタリーでした。